「セルフプロデュースの重要性について」

とあるビジネスセミナーのテーマのようだが、この講義が開かれたのはオフィスビルではない。巨人の2、3軍が活動するジャイアンツ球場(川崎市)の室内練習場だった。

選手たちは地べたに座り、ノートにペンを走らせる。その視線の先には日米通算で93勝を挙げた巨人OBの高橋尚成氏(47)がいた。2~20日までの期間で臨時投手コーチを務めていた。

講義場所こそ汗水しみこんだ巨人軍の虎の穴だが、その内容はビジネス講座さながら。高橋コーチが群雄割拠のメジャーリーグで、極東から来たいち投手がどのように戦いを挑んだかを、選手らに説いた。

繰り返したのが「セルフプロデュース力」の重要性。相手を知る前に自分を知る-。自己分析を徹底したのち、舞台に立つことが重要だという。

10~13年の4年間でメッツなどメジャー4球団を渡り歩き14勝を挙げた。同じニューヨークを本拠地とする名門ヤンキースとの「サブウェイシリーズ」に挑む前の経験を回顧した。

高橋コーチ 自分がどういうピッチャーなのかを把握しなきゃいけない。(当時のヤンキース選手)ジーターの映像を見たときに、自分がどういうピッチングをしたらこのバッターを打ち取れるかを考えた。自分と相手を徹底的に研究することで自分も見えてくるし、相手も見えてくる。自分って何なんだということもすごく重要。

巨人で10年間、主力として活躍した。そんな誇れる経験があったとしても自己分析を怠ってはならないと説いた。

杉内俊哉3軍投手コーチ(41)が「自分は悪いことには背を向けて、良いところを伸ばすことに集中した。高橋コーチはどうだったのか」と質問すると、次のように答えた。

高橋コーチ 自分の場合だが全てを受け入れてから、排除するもの、取り入れるものを決めていった。その際「何でこれは排除しないといけないの?」「何でこれは良かったの?」ということを考えた。この「何で?」が必要。そうすると1つの物事が前からだけでなく後ろからも、斜めからも見えるようになる。例えばストレート。ある1球について「何で?」良い球が行ったのか、「何で?」こんなにスピンが効いたのか、それを徹底的に研究するべきだ。映像、自分の感覚、コーチが言うこと、あらゆることから研究をすることが重要だ。

講義が終わればもちろん質問コーナーの時間。しかし、緊張からか選手たちからの手が全然挙がらない。見かねたコーチ陣からは追加質問。高橋コーチは言った。

「こういう時に質問できる選手って結構上にいけると思うよ」

まさにそうだと記者は思った。「質問力」とは「セルフプロデュース」そのもの。今の自分に不足している知識を把握し、それを知ろうとして質問を頭でまとめ、相手に伝える。この問答のキャッチボールこそが、論理的思考を持つトレーニングにもつながる。

選手に向けた高橋コーチの講義。気がつけば記者も聞き入っていた。【三須一紀】