2016年の第88回選抜大会は、1人の投手に始まり、1人の投手で終わった大会だった。阪神で活躍する智弁学園(奈良)・村上頌樹投手(当時3年)だ。福井工大福井との開幕戦で大会第1球を投げ、高松商(香川)との決勝で延長11回、大会最後の球をセンターオーバーのサヨナラ二塁打にした。
大会の初球を投げることは組み合わせ抽選の巡り合わせで回ってくることはあるが、決勝のサヨナラ打は打撃技術が伴わなければなかなかできないこと。長い歴史を誇るセンバツ史上でも、希少な記録だ。「投手でなければ打線の中軸を任せてもいい」と、小坂将商監督(45)から絶大なる信頼を寄せられていた村上ならではの離れ業で熱戦に終止符を打った。二刀流エースとして、打力は高校時代も際立っていた。
卒業後の進路を選ぶ際、打力を生かして野手として大成させたいと智弁学園に伝えてきた大学があったという。ただ、村上本人に投手への強いこだわりがあったと聞いた。投手としてしっかり育てるという方針で、東洋大への進路が決まっていった。
打席に立てるセの阪神の一員になったのも、村上にとって大きいだろう。実際、4月22日中日戦(バンテリンドーム)での初勝利の際、村上の安打による出塁が近本の先制打につながった。さらに「野手もしていたので、野手の気持ちがわかる。どんな投球をすれば守りやすいか、攻撃につながりやすいかを考えて投げられる投手」と小坂監督が語った特性は、阪神で勝ちを計算できる投手になりつつある今に表れる。
そういう感覚を持って投手が投げれば、打撃陣もなんとしても援護してやりたい、という気持ちで応える。投打で楽しみな新星だ。【阪神担当 堀まどか】




