大船渡の佐々木朗希投手が163キロを記録し、球速がフォーカスされている。筑波大硬式野球部の監督で、同大准教授の川村卓氏(49)は「動作解析」の視点から「誰でも速い球を投げられる」と話す。

スポーツ科学で野球を研究する筑波大学・川村監督(撮影・保坂淑子)
スポーツ科学で野球を研究する筑波大学・川村監督(撮影・保坂淑子)

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速い球を投げる一番のポイントは、体の使い方だという。川村氏が動作の原理に従って説明する。

川村氏 「内旋・外旋」という肩関節の動きがあるのですが、肘を上げて内旋を速くすると、速く投げられます。内旋を速くするためには、外旋が大きくなければいけません。これを「腕がしなる」といいます。腕がしなる人が、基本的には速い球を投げられます。肘を両肩の高さまで上げて肩の関節を安定させ、胸を張り、肩甲骨の動きをよくすると、加速したときの腕の動作範囲が大きくなり、ボールに与える力が大きくなるのです。

体幹に対してボールが遅い投手は、腕のしなりが50~70度。速球派は90度を超える。

川村氏 投球動作に入ったとき、胸をしっかり張り、骨盤を前傾させ体重を乗せて体をしならせる。肩の関節だけでしなりを作ろうとすると痛めてしまいます。肩甲骨を背中側に引き寄せ胸を張ると、外旋の大きなしなりが作れます。

胸椎(頚椎=けいつい=と腰椎の間にある12個の骨)が動くことによって、腕、肩甲骨、胸、骨盤によるしなりを作っていく。

川村氏 肩甲骨や胸椎を柔らかく動かす練習も大事ですが、姿勢を正したり、正しい歩き方など日常生活から意識することで、球速を上げる能力は高めることができるでしょう。

手や指先の動きも重要になってくる。

川村氏 ダイナミックな動きをするのに、リリースするのは人さし指と中指だけ。この離し方が下手だと5キロは違ってきます。速い投手はボールの下に向かって指の力が働く。低速の投手はホームの方向へ力が出てしまう。指のしなりも使って投げると、より速い球が投げられます。

速い球を投げるには、下半身の動き、強さもポイントになる。

川村氏 下半身から体幹の動きで大切なのは股関節を外転させる(開く)こと。サイドステップの要領で、股関節を横に開く動作がしっかり使えることが大切です。体幹の移動が大きくなり、腰の回転も行いやすくなるので、力が伝わりやすい。それができない投手は、膝の曲げ伸ばしで体重移動をしようとする。足がついたときには体が回転し、上半身へ力の伝達ができなくなってしまいます。中臀筋(ちゅうでんきん)を鍛えて体の開きを維持することも大切。150キロを投げる右投手の場合、左足をついたときに、まだ右肩が開かず打者からは見えていない。130キロの投手は、一緒に回転してしまうのでエネルギーの伝達ができなく、腕が頼りになってしまうのです。

1つ1つの動きを連動させることで、誰もが速い球を投げられる。(つづく)【保坂淑子】

◆川村卓(かわむら・たかし)1970年(昭45)5月13日、北海道江別市生まれ。札幌開成の主将、外野手として88年夏の甲子園出場。筑波大でも主将として活躍した。卒業後、浜頓別高校の教員および野球部監督を経て、00年10月、筑波大硬式野球部監督に就任。現在、筑波大体育系准教授も務める。専門はスポーツ科学で、野球専門の研究者として屈指の存在。