今年も多くの選手たちがプロの世界を去った。第2の人生へ踏み出す彼らを特集する「さよならプロ野球」を、全12回でお届けする。
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幸運は、いつ訪れるかわからない。11年から今年までオリックスで活躍した宮崎祐樹外野手(33)は「1球」で野球人生を変えた。
「あの年、苦しかった。5月に1軍に上がったけれど結果が残せなくて落ちて。全然ダメで。ずっと『構想外』が頭をチラついてたんよね。自分の野球人生、いつ終わってもおかしくないなと」
与えられた機会で居場所を勝ち取るため、必死でバットを振った。プロ2年目の12年9月29日、その瞬間は訪れた。ビジターのロッテ戦に「1番センター」で出場。「覚悟を決めていた」と言うように初回の初球をフルスイング-。ロッテ藤岡の変化球だった。うまく腕をたたんで対応すると、打球は左翼スタンド中段で弾んだ。喜び爆発。「コワモテ」な顔が右拳をグッと上げた。「水口さん(当時の打撃コーチ)に徹底的に教えてもらった。死ぬ気で練習したよね、あのとき。2軍で初球を狙う準備をずっとやってきたからね」。
プロ初安打を初球先頭打者本塁打で飾るのはNPB史上初の快挙だった。「あの1球で、自分の野球人生は変わったよ。これでなんとか(1軍で)やっていけるんじゃないかって自信もついた」。9年間、オリックスで戦った。「しんどかったけど、楽しかった。一流はみんな、めちゃくちゃ練習する」。オフの自主トレは米グアムで阪神糸井やソフトバンク柳田と汗を流した。亜大の先輩であるソフトバンク松田宣からは「今の俺どう?」と助言を求められたことも。「やっぱり、周りの人に恵まれた野球人生でした」。
今後はバットを置き、民間企業への就職を目指す予定。「野球の指導者をしたい気持ちは強い。ただ、嫁と子どもがいる。まずは家族のことを考えた選択がしたい」。33歳。志高く、新たな旅路を行く。その一瞬を、諦めない。【真柴健】