将来の米国野球殿堂入りが確実視されるエンゼルスのアルバート・プホルス内野手(39)のバットが、世界で拡大を続けている。04年に創設されたバットメーカー「マルッチ」は現在、メジャーリーグのシェアNO・1。日本、韓国などアジア圏にも進出している。10年足らずでいかにして地位を築いたか。素材、重さ、日本の型との違いなど、強みに迫った。

           ◇      ◇      ◇

マルッチ製は日本製のバットと比べグリップから芯の中心部分までがやや太く、わずかなバランスの違いがある。素材は比較的軽い材質で堅い「ハードメープル」を主に使用。近年、メジャーで主流となっている木材だ。ペンシルベニア州やニューヨーク州など米国北東部の森林から採取されるが、同社ならではのハードメープル選定法については企業秘密だという。

バランスや重さを調節する「カップ」と呼ばれる部分(撮影・斎藤庸裕)
バランスや重さを調節する「カップ」と呼ばれる部分(撮影・斎藤庸裕)

かつて日本で主流だったアオダモに比べ、スイング時のしなりは少ないが、堅さから折れにくいとされる。昨季からSSK社製のハードメープルを使用した西武中村は「堅いから(バットの)ヘッドが遅れてこない。速い球を打つことができる」と特長を実感。木そのものに「強さ」がある。

見た目で最も大きな違いはバットの先端部分。米国の木製バットは基本的に円形の先端部分をくりぬき、穴のようなへこみを作る。バランスと重さを調節するためのもので、「カップ」と呼ばれる。例えば、カップが浅ければバットの先端が重く、ハンマーのようになり、その分、スイング時に遠心力が利く。昨季ブレーブスで37本塁打を放ったドナルドソン内野手ら長距離タイプに好まれる型だ。

一方で、カップが深ければグリップから先端部分までの重さが比較的均等になる。12年のナ・リーグ首位打者でジャイアンツのポージーらアベレージヒッターは、バランスを重視してカップを深くするという。カップの大小にも、選手それぞれのこだわりがある。

細かな要望に応えながら、バット作りに励む職人が、元メジャーリーガーのブレット・ラクストンさん(46)。アスレチックスで投手としてプレーした経験があるだけに、190センチ近い大柄な体格だ。実は小さい頃から打者に憧れていたという。プレーではかなわなかった夢を後輩メジャーリーガーたちに託す思いで、職人となって13年、丁寧に1本1本を作り上げている。

マルッチ社のバット工場でバット作りに励むラクストンさん(同社ホームページより)
マルッチ社のバット工場でバット作りに励むラクストンさん(同社ホームページより)

ラクストンさんを中心として、バットの質のチェックは15部門を15人で分担。重さ、バランス、ツヤ、グリップテープの巻き方など確認を重ねる作業が、顧客のニーズに応える正確さを生む。それがマルッチ社の強みでもある。

日本へバットを輸送する際は、湿気を避けるためビニールで真空状態に密閉する。少しでも湿気があれば、質が落ちるからだ。日本と米国、また選手それぞれに違いはあるが、「今は日本人選手が好む型を作っている段階。信頼は年月をかけて得るもの」と担当者のオルソ氏。細部にこだわり、日本流マルッチの研究と開発を重ねている。(つづく)

【斎藤庸裕】