新型コロナウイルスによって異例のシーズンになる中、巨人の沢村拓一が苦しんでいる。7月だったか、ゲームを見ていて「ないものねだりをして、自分の持ち味を忘れていないか」と強く感じた。

7月、ヤクルト戦の1回裏、青木に右越え2点本塁打を浴びる巨人沢村
7月、ヤクルト戦の1回裏、青木に右越え2点本塁打を浴びる巨人沢村

ルーキー時代の11年に出会った。日本ハムの斎藤佑樹、西武の大石達也が注目される中、1位指名で巨人に入った。150キロを超える速球を武器に先発ローテに入り、新人ながら200イニング投球回も突破した。ファームのコーチだったので絡みは少なかったが、当時から「いい抑えになるのでは」と見ていた。

分かっていてもファウルや凡打になる真っすぐが最高の魅力だ。アマチュア選手の評価で「スピードは速いが空振りが取れない」とよく聞くが、沢村の場合は、ボールの力と飛びぬけたスピードがある。ウイニングショットとしてスプリットも習得。それも150キロを超えるのだから、相当なものだ。

今も昔も、ピッチングの原点が真っすぐであることは変わらない。打者の側に立って考えれば、速ければ速いほど優位に立てる。プロの世界でトップを張る投手でも、ほとんどが「あと何キロかスピードが速くなれば」と心から思っている。沢村には、極めて優位な位置から投球できる前提があるのだ。

投球フォームで迷っているのかもしれない。人には言えない何かで迷いもあるのだろう。自分なら「今、一番困っているのは何か」と単刀直入に質問し、助言する。メンタル面でいえば、彼の持ち味でもある「何が何でも打ち取る」という気迫を前面に出すこと。自分の過去のプライドをかなぐり捨てるのも1つの方法である。

おそらく、投げることに関してはもう、いろんなことを試しただろう。それでも球が荒れるのだから、フォームのことは言わず、バント処理やゲッツーの練習をさせる。投手の場合、そのような練習では縫い目はどうとか、軽く握るとか、あれこれ考えることはない。

1つの方法としては、三塁か遊撃あたりの位置からゴロを捕って、フットワークを使って一塁へ送球する。途中から変化球も交ぜるといい。こちら側からは何も言わず、一塁手を見て、そこに投げようとする意識だけが出てくれば、しめたもの。ステップ2に移る。5メートルほどの距離からネット投球し、徐々に距離を伸ばしていく。

子どものころは余計なことを考えず、一心不乱にボールを投げていたはず。野球には真っすぐな男だが、いろいろ周りから言われ、本人が一番苦しいだろう。「乗り越えろ」と心から願っている。(つづく)

小谷正勝氏(2019年1月18日撮影)
小谷正勝氏(2019年1月18日撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗6セーブ、防御率3・07。79年から投手コーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団でコーチ、13年からロッテ。17年から昨季まで、再び巨人でコーチ。