エンゼルス大谷の活躍に沸いた2021年のメジャーリーグ。コロナ禍で始まったシーズンは、26日(日本時間27日)からワールドシリーズが行われている。今月初旬に日本から現地に赴いたMLB担当記者が感じた、米国の今を伝える。

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コロナ禍から復活へ向かいつつある米国のメジャーリーグを取材してきた。入国時などの規制がまだ続いており、いつもより多くの手続きをこなしながらの2年ぶりの渡米。果たして何の問題もなく目的を達成できるのか、不安もあった。

まず羽田からシアトルへ、直行便で入った。最初の不安は入国にどれだけ時間がかかるかということだったが、これに関してはあっけないほど素早く通過できた。日本で取得した陰性証明書は搭乗手続きの際に提示した以外、入国時には提出も提示さえも求められず、拍子抜けしたほどだった。

マリナーズ本拠地の「Tモバイルパーク」(19年1月撮影)
マリナーズ本拠地の「Tモバイルパーク」(19年1月撮影)

その日のうちにマリナーズの本拠地Tモバイルパークへ。日本で接種した新型コロナウイルスのワクチン証明書を持って報道陣入り口へ行き、取材証を受け取る。コロナ禍が始まってからのMLB取材はオンラインを通じて行われることが普通になったが、今季途中からワクチン接種を完了していれば、練習中のグラウンドに入場することができるようになった。米国以外で発行されているワクチン証明書に関しては規定がなかったため、認められないのではという一抹の不安もあったが、そんなことはまったくなかった。取材証にグラウンド入場可のシールを貼ってもらうだけで、その後は一切フリーパス。コロナ禍の特別ルールはさまざまあるものの、チェック体制はそこまで厳格ではないというのが米国スタイルだ。

レッドソックス本拠地フェンウェイパークの記者席があるフロアには「屋内ではマスク着用を」のポスターが張ってあるが、米国人記者のほとんどはノーマスク。記者席は狭い空間に50人以上が入り、隣席の人と数十センチしか離れていない状況でも「密」を気にするという感覚が、米国にはない様子だった。

コロナ禍でもう1つ変わったのは、キャッシュレス化だ。Tモバイルパークのメディア食堂は、以前は現金で支払うこともできたのでそのつもりでドル紙幣を差し出すと、「ノー」と言われ受け付けてもらえなかった。シアトル市内を走るタクシーも現金を受け付けない車があったので、感染症対策としてのキャッシュレス化が街全体で進んでいる印象だった。

シアトルの街中にホームレスが増えていたのも、コロナ禍前と比べて目立った変化だ。同市には、住む場所がない人々がテントを張って暮らす「キャンプ・シティ」という場所が以前からあったそうだが、今はキャンプ用テントが市街地にも多数見られるようになった。Tモバイルパークの開閉式屋根がスライドする球場東側にも、実はこのテントが複数存在している。折しもシーズン最終シリーズの球場の内側では、超満員のファンがマリナーズの20年ぶりのポストシーズン進出がかかった試合で盛り上がっていた。米国社会の光と影を目の当たりにした思いだった。【水次祥子】