この練習がどれだけ大事なことなのか、経験してきた私にはよく分かる。北谷での中日キャンプを訪れた。首脳陣が隔離された緊急事態だったが、少なくとも私の目には、捕手の意識は非常に高く映った。

フリー打撃で捕手がポジションにつくバッティングキャッチャーをしていた。若手の石橋と、木下が受けていた。最初に入った石橋はほぼ膝をつかず、しっかりとした姿勢で捕球していた。この日のフリー打撃で投手が投じる球は、すべて直球。ワンバウンドする可能性が高い変化球がない分だけ、ついつい膝をつきたくなるものだ。それだけ強い意思が求められるが、石橋は最後まで意図的に膝をつかないように構えていた。

続く木下も同じように、試合を想定した捕球姿勢だった。2人の練習を見ると、チームとして徹底されているように感じた。宮崎では巨人のブルペンを取材したが、そこでは大城、岸田がほぼ膝をついて捕球していた。同じ状況でも、このわずかな差が、いずれ大きな違いになる。

各キャンプを取材しながら、特に捕手の捕球姿勢をじっくり見ている。膝をつかないことが、いかに大切かを私は身をもって経験している。ルーキーイヤーの2軍戦。私は、1回裏1イニング2度のブロッキングミスによる暴投で交代させられた。5番だった私は2回表は先頭打者で迎えるはずだった。そこから、それまでの捕球姿勢を改めるため毎日ブルペンに入り、膝をつかずに捕球し続けた。およそ300球は受けていたと思う。

プロには、最初からブロッキングがうまく、私のような経験をせずともしっかり止められる人もいる。ただ、私は失敗から自分の弱点を見直し、地道な取り組みで克服できたという自負がある。その経験があるからこそ、中日捕手陣の意識の高さを感じることもできる。

木下が正捕手の座を手中に収めようとしている。若手の石橋は、その序列に何とかして食い込むチャンスを見いだしたい。これから先はフリー打撃に変化球も入るようになり、バッティングキャッチャーをするにも、より実戦に近い形でのブロッキングが必要になってくる。

キャンプ最後までこの姿勢を貫いてこそ価値が出てくる。この何げない取り組みが、公式戦で勝敗を分ける重要局面で発揮される。(日刊スポーツ評論家)