急きょ、甲子園球場に変更して行った試合。20日(木)は雨天で中止となったが、1つ勝てば今季のウエスタン・リーグ優勝が決まるソフトバンク戦(21日)。マウンドを託されたのは阪神に入団して2年目、現在、評価急上昇中の浜地真澄投手だった。金本監督が時々、登板日に合わせて鳴尾浜球場へ視察に来場する存在。持ち味はスピンの効いたストレート。期待の若手、ピッチングに注目したが、先発投手としての責任(相手に先に点を与えない)は果たせず、指先のマメまではがれるアクシデントもあって2回で降板。「悔しいです」表情は、心の中の思いがにじみ出ていた。申し分ない素材。将来を見据えてスポットを当ててみた。

そう簡単には経験できない試合。マウンドへは「優勝がかかっています。いつもの1試合とは違います。そこは意識して、気持ちを引き締めて頑張ります」と言い残して登った。立ち上がりは本多を中飛。真砂、城所を連続三振に打ち取る好スタートを切ったが、指先のアクシデントが気になったのか、2回、コラスに自身今季初の自責点となるホームランを浴びた。厳しい世界の体験だ。

この1発を分析する。1軍レベルから浜地の現状をにらんだとき、大きな課題を感じ取った。長い目で見れば経験の1つにすぎないが、プロ野球の世界で、変化球でカウントが稼げず、苦しまぎれにストライクを取りにいったストレートを痛打される1発は、ホームランを浴びる典型的な配球。要するに狙い打ちだ。変化球の制球に欠ける投手がよくやられるケースである。「現在のテーマは変化球です。ストライクを取れる変化球を自分のものにすることです」以前からのテーマだが、1軍昇格の必須条件といっていいだろう。

入団時から見てきた。球威は今シーズン1軍デビューした才木と遜色はない。ゆったりしたフォーム。一旦右足に全体重を残してからの始動。上半身と下半身のバランスはいい。腕の振りも抜群だ。テークバックからの肘の使い方は理に適っている。手首の返しも理想的。リリースポイント直前の胸の張りも良し。球の質ではむしろ浜地の方が勢いがあるように見える。安藤コーチも「去年のキャンプで見たときから、いい球を投げるピッチャーやなあと思っていた。投げるボールは一級品。バッターの手元でグッと伸びてくる。楽しみな若手ですね」と期待している。

昨年の夏場頃だった。順調だった歩みがピタッと止まった。腰痛に襲われた。治療に専念し、リハビリは約1年近くに及んだが、なかなか快方に向かってくれない。若いがゆえに体に自信を持っている。つい、故障後のケアを怠り気味になっていた。

野球選手としての自分に目覚めた。成長の過程に“試練”は付きものだが、考えようによってはプラス思考にもマイナス思考にもなれる。「与えられた試練は自分に打ち勝つチャンスだと思え」前向きになれる。

早朝5時半に起床して、風呂に入って体を温めた。電気をあてて、ストレッチを行った。地道な努力が実って、やっと6月に実戦復帰した。生きのいいストレートが復活した。矢野監督の期待も大きい。「今、ファームでは真っすぐが一番いいピッチャーですね。ストレートの質は1軍でも通用するでしょう。今後は、変化球でカウントが取れたら、もっと真っすぐが生きてくる。今年のうちに上で投げるチャンスはあるかもしれない。そこに目標を置いてやってほしい」と昇格をもにおわせた。

問題は指先のマメだろう。今、投球数も制限している。なるべく湯船に右手をつけないようにしている。シャンプーも左手1本でやっている。ワラにもすがりたい心境だろうが、そういえば日本ハム時代の大谷(エンゼルス)もマメを潰していた。対処法はあるはず。我々の経験からすると、キャンプでマメを潰し、一旦固めてしまえば1シーズン大丈夫だった。体質だろうか。ついて回るようだと厄介だが、頑張るしかない。

将来の柱。先を越された才木については「気にしてイライラしてもしょうがない。その気持ちを練習や試合に向けたい」あのストレートを桧舞台で見てみたい。「そうですね。1軍には上がらないといけませんね」遠くはないはず。楽しみにしておこう。

ファンの皆さん、大変遅くなりましたが、ファームの8年ぶり優勝は決まりました。若手の努力のたまものです。大いに祝ってやって下さい。おめでとう--。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)