横浜でまた敗れた。4月16日、日曜日。1点差届かず、相変わらずの貧打を露呈した。試合後、選手はまたうなだれているのか。そこまでテレビではわからなかったが、岡田彰布はその様子を極端に嫌う。

「なんでそこまで落ち込むのか? そんな必要はないのにな。オレにはわからん」。こうつぶやいたのは数日前。長いシーズン、一喜一憂しての毎日が続けば、体がもたなくなる。普通に過ごせばいい。岡田の1年を見据えた求めが、ここにある。

野球もエンタメ。そういう意識で、喜怒哀楽がストレートに出る世界になった。選手の素の部分を見て、ファンは喜び、声援を送る。負ければガックリ。勝てば大はしゃぎ。昔の野球界にはなかった。空気感に戸惑うけど、これも時代を象徴しているのだろう。

昔風の野球人、岡田彰布はためらうことなくチームにあった決め事を廃止した。ホームランを打てば金メダル? 虎メダル? を監督自ら選手にかけていたけど、岡田なら絶対にやらないと思っていた。試合後の整列。負けてもスタンドに頭を下げていた儀式を、敗戦ならやめた。これも岡田ならではだ。

「まあ、普通にやればエエことやんか。ことさら大騒ぎする必要はないし、喜ぶ時も、やや控えめでエエんちゃう?」。昔風のチームの姿。控えめに、謙虚に戦うのも、意味を持つ。下手に挑発することはない。相手を刺激せず、淡々とこなす姿こそが、強いチームに似合う。

そこまで岡田は制限したわけではないが、選手は前年までのように、はしゃがなくなった。他のチームが、大騒ぎしている中、この控えめな試合の進め方、勝てばより相手に重圧を与える。岡田はそういうチームを目指している。

そんなことを思いながら、ああ、そうだ、と気になる光景が頭を巡った。それは先の巨人戦のこと。3連戦の3戦目。先発に立ったのが西純だった。今季初勝利を目指し、気合たっぷりで投げていた。ピンチを迎え、打席には主軸が。中田翔を迎えた、さらにギアを上げた西純は三振に仕留めた。

その時も西純は右の拳を突き上げ、声を張り上げていた。するとテレビ画面が中田翔を抜いた。明らかに怒りの顔だった。三振した自分への腹立たしさとともに、西純の過剰なアクションが気にいらない。そんな風情に見えた。

まあ年寄りのおせっかいなんだけど、過去にも摩擦を生んだパフォーマンスがあった。昨年だったか、ヤクルト戦で糸井に投げ勝った田口がオーバーアクション。これに糸井があからさまに怒りの表情を作っていた。さすがにやりすぎたと思ったのか、田口は反省を表したようだが、これなど無駄に敵を作るな…の典型だった。

西純は高校時代から派手なパフォーマンスで審判から注意を受けたこともあったと聞いた。まあ、真剣であるが故に出る動きなのだろうし、気持ちがピュアということなんだろう。しかし、年寄りは思うのだ。刺激するな。淡々と普通なのが、いかに強く見えるか。そうでないと、次の対戦があれば、巨人はこれまで以上に執念を示して、西純つぶしに来るに違いない。

ここが難しいところなんだろう。エンタメを意識するなら、ファンが喜ぶことをすれば、グッと盛り上がるけど、それが過ぎれば、何となく嫌みに映る。その線引きが難しい。

65歳の監督、岡田は若いチームの中で、それなりの動きと表情を出している。選手をパータッチで迎え、声を出して鼓舞している。年齢を考えれば、それはけなげにも映るのだが、本当は黙っていても、勝つチームが一番強いと信じている。

静かな強さ、静けさの中にある底力。相手がビビるほどの圧力を、静かな阪神ははぐくんでいく。エンタメとは真逆の発想で、戦ってほしいものと、昔風のライターは願うのである。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)

巨人対阪神 1回裏巨人2死二、三塁、西純は中田を三振に仕留めガッツポーズを見せる(2023年4月13日撮影)
巨人対阪神 1回裏巨人2死二、三塁、西純は中田を三振に仕留めガッツポーズを見せる(2023年4月13日撮影)
巨人対阪神 6回裏巨人2死一、二塁、西純はブリンソンを三振に仕留め雄たけびを上げる(2023年4月13日撮影)
巨人対阪神 6回裏巨人2死一、二塁、西純はブリンソンを三振に仕留め雄たけびを上げる(2023年4月13日撮影)
巨人対阪神 1回裏巨人2死二塁、左前に先制適時打を放つ中田翔。投手西純(2023年3月22日撮影)
巨人対阪神 1回裏巨人2死二塁、左前に先制適時打を放つ中田翔。投手西純(2023年3月22日撮影)
巨人対阪神 1回裏巨人2死二塁、中田翔に先制適時打を打たれる阪神先発の西純(2023年3月22日撮影)
巨人対阪神 1回裏巨人2死二塁、中田翔に先制適時打を打たれる阪神先発の西純(2023年3月22日撮影)