田村藤夫氏(63)のキャンプ取材最終日は、宜野湾を訪れた。このキャンプ取材で楽しみにしていたのが、DeNAドラフト1位高卒ルーキー・松尾汐恩捕手(18=大阪桐蔭)の動きだった。

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松尾の捕手としてのプレーは本球場での1カ所バッティングで見ることができた。阪口とのバッテリー。ブルペンでの動きが見られるかもしれないと予想していた。それはかなわなかったが、図らずも三塁ベンチから、ホームで構える松尾のキャッチングを、ほぼ真横から観察できた。

松尾を見るにあたって、私の頭の中には高卒ルーキー捕手に対し、いろんなバロメーターがちらちらと浮かんだ。まずは、昨年のロッテ松川の存在があった。私は22年2月、糸満でのブルペンで松川を見て、変化球のキャッチングに疑問を投げかけた。変化球を受ける時にミットが下を向くことについて、球審からボールが見づらくなると指摘した。

しかし、開幕してからの松川の活躍は目覚ましく、佐々木朗希のフォークを見事に止め、1軍での経験を積んだ。私としては、その反省が頭をよぎる。でも、と思う。そうそう高卒ルーキーが連続して台頭するとも思えない。そんな固定観念が邪魔をして、フラットな評価ができるかなと、いろいろ自問自答しながら松尾を見ていた。

やはり、という表現は変な気がするが、松尾のミットは地面につきそうなほど下がっていた。横から見ているため、下がっているのは間違いない。となると、どうしても真っすぐのキャッチングで差し込まれる。ボールに負けてしまう、とも言い換えることができる。

具体的に言うと、本来の理想的なキャッチングのポジションよりも、わずかに体寄りでキャッチングしている。感覚的な部分だが、おそらく5センチ~10センチくらいだろう。その分だけ投手寄りでキャッチングすれば、次の動作へも移行しやすくなる。

私のように、長年キャッチャーだけを見つめてきたものからすれば、「こうあるべき」というひとつのイメージがある。そこと比べ、わずかでもズレがあると気になってしまう。私のイメージだけが正解ではないと思うが、経験からくる1つの目安として、キャッチングの姿勢は気にして見てきた。

どのポジションが適正か正解かは、おのおののバッテリーコーチの意見もあるだろう。言えるのは、差し込まれて受けてしまうと、キャッチングも苦しくなり、盗塁などの対処もわずかに遅れる。松尾ならば、この微差を修正することはそれほど難しくないだろう。

捕手としての動きは違和感ない。正確にはまだ高校生だが、プロの1軍に入って、明らかなレベルの違いは見受けられない。強いて言えば、「ランナー一塁」などの声がけが、ちょっと遠慮があるというか、照れがあるのかな、という印象を受けた。周囲の空気感を感じながら、自分だけ突出して声を張れないと感じているかもしれない。

こういうところは、初々しくもあり、こちらも、あら探しとは思っていないが、何か違いはないかと無意識に探しているから感じる部分かもしれない。まだ18歳。思い切って大声で指示をしても、何も問題はない。慣れるにつれて解決されることだろう。

練習最後に、サブグラウンド付近で松尾と話す機会があった。「どう、慣れた?」と聞くと「はい、何とかやってます」と、にこやかな返答だった。今は周囲についていくことで精いっぱいだろう。なかなかペースもつかめず、精神的、肉体的に目いっぱいの中での毎日だと思う。

それでも、こうして1日1日と1軍キャンプをルーキーイヤーに味わうのは、本当にすごいことであり、貴重なことだ。私の1軍昇格は4年目だった。

仮に、私が1年目から1軍キャンプを経験していたらと思うと、それは何よりのアドバンテージになっていただろうなと感じる。「あれが1軍の雰囲気か」「1軍キャンプの流れはこんな感じかな」と予想がつく。今後、たとえ2軍落ちしても、戻るべき場所として具体的にイメージができる。これは経験が有るのと無いのとでは大きな違いだ。

昨年の松川の出現によって、一気に高卒ルーキー捕手への期待値が変わった感がある。今年は現状では中日山浅(龍之介、18=聖光学院)と松尾に期待がかかる。松尾、山浅が少しでも長く1軍キャンプを経験し、1軍公式戦出場を果たせば、ますます高卒捕手への評価は上がる。

捕手は育成に時間がかかる。これは、学ぶべきことが多いという事実に即した鉄則であると、私は信じている。その一方で、ルーキーイヤーに1軍を経験した捕手が、今後どれだけの伸び率で正捕手へ肉薄していくか、そこは未知数だ。

「いやいや、捕手の高卒ルーキーは簡単じゃないよ」。プロ球界ではずっと言われてきたセリフだ。この常識が、いずれ変わっていくことも十分にあり得るだろうなと、松尾を見ながらそんなことが頭に浮かんだ。(日刊スポーツ評論家)