「時代の寵児(ちょうじ)」と言う表現がある。令和初期の球界を盛り上げてくれそうな高知高校・森木大智投手にも、何か特別なものを感じずにいられない。昨年、中学3年生ながら軟式球で史上最速とされる150キロを出し、この4月から硬式野球でプレーしている話題の球児だ。

4月に取材に訪れた高知で興味深い話を聞いた。長く同県の高校野球を見てきた高知OBの男性が「すごい話があります」と耳打ちしてくれた。高知は春夏1度ずつ甲子園を制しているが、夏の優勝は64年。そう、東京五輪の年だった。

「そのときも2年生投手が活躍したんです。こんな偶然はありません」。東京五輪が56年ぶりに開かれる来年、森木もちょうど2年生になっている。

64年夏は「奇跡の優勝」と言われていた。元ロッテの有藤通世がエースだったが、甲子園初戦で顔面死球を受けて離脱。奮闘したのが、2年生で控えだった光内数喜投手だった。獅子奮迅の活躍で、のちに大スターになる有藤を欠く大ピンチを救ったのだった。

高知は野球熱が高い。市内の居酒屋では、自然と森木の話題になった。キー局で特集されたことが大きいという。高知に久しぶりに現れたスーパースター候補というムードだった。

「軟式で150キロ」は確かに強烈だが、今はその肩書が先行しているとも感じる。平成の終わり、令和の始まりというタイミングだけに、注目に輪をかけた感はある。仮に149キロだったら、ここまで騒がれなかっただろう。野球部関係者からは「騒ぎすぎ」「好投手だけど、怪物ではない」との声も聞いた。メディア側の熱を抑えて、ステップアップに専念させたい思いを感じ取った。

森木は狙って150キロを出したとも聞いた。平成の終わり、硬式球でも変わらぬ剛球を間近で見た記者は「東京五輪」の巡り合わせを信じたくなった。

【柏原誠】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

高知・森木(2019年4月21日撮影)
高知・森木(2019年4月21日撮影)