最速150キロ右腕の素顔は控えめで優しげな男だ。2月22日、ロングティーの飛距離を競う大会を取材した時だった。参加者のほとんどは草野球プレーヤーだが、目当てはゲスト参加したBCリーグ・神奈川の杉浦健二郎投手(21)。大会が始まり選手が順番に打席に入る中、杉浦の姿が見当たらない。不思議に思いつつ、打球の行方を追う。白球が地面についたとき、目を丸くした。

「95メートル!」。拡声器越しに大声を出していたのは杉浦だった。グラウンドを走り回り、次々と放たれる打球を追う。着弾点の飛距離を計測する雑用をこなしていた。「手伝いましょうか」と大会開始直前に運営者に申し出ていた。自分の打席は後回しに、淡々と数字を読み上げる。他人を思いやる気持ちとその行動力に驚いた。

取材中は常にもの静か。淡々と的確に質問に答える。取材が終わると毎回「ありがとうございました」と深々と礼をする。高校、大学と野球部に入らず、軟式の草野球からBCリーグのトライアウトを受験し合格を勝ち取った。そのハングリーさから、熱血漢を連想させるが、素顔はもの静かな好青年だ。

冷静に物事を考えることができるからこそ、自分に何が足りないのか考えられる。シーズン開幕へ向け「トライアウトの時と似ているところは一切ない」と断言するまでフォームを改良した。試行錯誤をしながら硬式仕様に変化させる日々だ。

チームは2試合のオープン戦を行ったが、登板はなかった。右肘違和感の影響で、大事を取った。オープン戦の試合中、バックネット裏でスピードガンを構えながらデータを取る杉浦の姿があった。裏方でも率先してチームに貢献する。その人間性で野球を極め、NPBへの夢をつなぐ。【湯本勝大】

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

2月、合同自主トレでキャッチボールをするBC神奈川・杉浦健二郎
2月、合同自主トレでキャッチボールをするBC神奈川・杉浦健二郎