阪神対DeNA 7回裏阪神1死一、三塁、糸井嘉男の右前に適時打で生還しナインと笑顔でハイタッチする近本光司(撮影・上田博志)
阪神対DeNA 7回裏阪神1死一、三塁、糸井嘉男の右前に適時打で生還しナインと笑顔でハイタッチする近本光司(撮影・上田博志)

なんだ。この試合は。それでも勝ちは勝ちだ。阪神の。ヒーローは梅野隆太郎か。ひょっとしてDeNAソトかも。実は近本光司の足も光っていた。「野球の常識を覆す作戦」が信じられないほどハマった試合となった。

先制こそしたが逆転を許し、5点差を追う7回裏だった。今季初の甲子園でジェット風船が舞う。それに乗せられたのか。阪神打線が奮起した。先頭に立ったのはルーキー近本だ。代打に立つと、ここで登板したエスコバーから中前打をマーク。しかし、ここからが本当の勝負だった。

一塁で執拗(しつよう)にリードをとり、エスコバーを嫌がらせる。そしてキッチリ持ち味の俊足を生かして盗塁を決めた。振り返ってみれば阪神終盤の猛反撃はここからがスタートだった。そして、それは新たな指揮官・矢野燿大が狙う野球スタイルの成功でもあったといえる。

普通、終盤の5点差で盗塁はしない。セーフになっても後続がなければ意味がないからだ。当然ながらアウトになったら目も当てられない。じっくり走者をためて、かえしていくのがセオリーだ。だが近本は走った。

冷静に考えれば5点リードで出した走者について投手はそれほど気にする必要はないはず。だがプレーしている側にすれば簡単ではないのだろう。エスコバーは近本を気にしていた。まさにこれが阪神ベンチの狙いだった。ヘッドコーチの清水雅治が振り返る。

「投手が走者を気にすればね。集中力が変わってくるでしょう。セオリーとか言いますけどね。栗山さん(英樹=日本ハム監督)も『常識を疑え』と言っているけど、そうだと思いますよ。ああいうところから何かが生まれていくと思います」

矢野の盗塁策については直近7日の広島戦(マツダスタジアム)でも書いたばかり。あのときは植田海が6点リードの8回に盗塁を決めた。いわゆる「野球の不文律」からすればあり得ないことだったが、その場面は広島ベンチも警戒していたし、真剣勝負だった。この日は戦略的にセオリーを無視した盗塁だったが、常にその姿勢があるからこそ成功できるともいえる。

これで阪神は5割復帰だ。先発投手が逆転された典型的な負け試合の展開だった。DeNA守備陣にもらったような勝利ではあるが勝ちは勝ちだ。これは大きい。野球に限らず、勝負事は相手のミスも勝利の要素だ。ここは一気に連勝が欲しい。(敬称略)

阪神対DeNA 7回裏阪神無死一塁、近本光司は二盗を決めさらに三塁に進塁する(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 7回裏阪神無死一塁、近本光司は二盗を決めさらに三塁に進塁する(撮影・上山淳一)