日刊スポーツのサイトで見た記事に思わず目を奪われた。社会人野球の頂点ともいえる都市対抗野球に創部2年目、千葉のクラブチーム「ハナマウイ」が予選初出場にして本戦出場の快挙を成し遂げたという。

詳しくはそちらでチェックしていただくとして、監督の名前を見て「おっ」と思った。本西厚博。オリックス、そして阪神でプレーした名手である。記憶に残るのはオリックス黄金期の90年代半ばだ。

イチロー、田口壮というスターに挟まれる形で中堅を守ることが多かった。面白かったのは東京ドームを本拠地にしていた日本ハム戦だ。オリックス側が投手交代する時間を使って右翼イチローと左翼田口が守備位置で距離の長いキャッチボールをしてみせた。

その強肩だけで両軍のファンから大喝采を浴びる中、本西は「こらっ! 俺にもボールを回さんか! ええかげんにせえ!」と笑いながら怒っていた。

「ハナマウイ」は介護が必要な高齢者にサービスを提供する東京都指定の施設だ。野球部員は都内施設で週4、5日、1日8時間勤務する。全体練習は業務がない週2、3日に限られるそうだ。

「仕事をやらせてもらっていること。野球をやらせてもらっていること。どちらにも感謝しないといけない」。本西は部員にそう指導しているという。野球が好きでもっと上のレベルで…と心の中では思っていても現状、自分のできることを懸命に努力している。彼らからすればプロ選手は夢のような存在だろう。

監督の本西は97年、ほんの少しだったがタテジマのユニホームにそでを通した。オリックスからの金銭トレードだった。その後に日本ハム、ロッテでもプレーしたがセ・リーグは阪神だけ。阪急からプロ生活を始めただけに「1度は人気のある阪神でやってみたいと思っていたな…」と聞いたこともあった。

その阪神はこの日、マツダスタジアムで広島に逆転負けを喫した。いろいろと思うところはあるが、何というか巨人にここまで走られ、クライマックスシリーズもない今季はモチベーションを保つのが難しいだろうと正直、想像する。

そんなときに考えてほしいのが例えばハナマウイの選手について、だ。こういう境遇で野球に燃えている若者もいるのだ。ましてや注目されるプロ。懸命に戦う理由は、常にある。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

YBC柏対ハナマウイ 都市対抗本戦出場を決めたハナマウイの本西監督(撮影・古川真弥)
YBC柏対ハナマウイ 都市対抗本戦出場を決めたハナマウイの本西監督(撮影・古川真弥)