「しびれましたけどね」。勝利インタビューで指揮官・矢野燿大が発した言葉がすべてを物語っている。14日に続いての1点差勝利。2位巨人にきっちりカード勝ち越しを決めた。

アルカンタラの登板で不振のロハスを外し、陽川尚将をスタメンに入れた打線がつながっての逆転勝利。「勝利の方程式」もズバリ決まり、今季好調な阪神の戦いができた。

そんなゲーム展開をどう見ていたのだろうか。この日、「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄が東京ドームに姿を見せた。「スーパースター」と呼べる存在がいなくなった現代に生きる若者にはなかなか想像できないかもしれないが、これほど日本人から愛されたアスリートもいないだろう。

巨人の指揮官・原辰徳が「今年の阪神は手ごわいですよ」と長嶋に話しかけ「そうだね」と答える、試合前ベンチ裏の様子が放送されていた。お元気そうでなによりである。その長嶋にまつわる大好きなエピソードをまた書いてみたい。

闘将・星野仙一が中日監督を辞任した01年のオフ。阪神から監督就任の依頼が届いていたときの話だ。少年時代に大阪タイガースの「O」マークがついた帽子をかぶっていた虎党の星野。オファーはうれしかったが、そこまでは中日ひと筋。しかも辞めたばかりで「さすがにな…」と迷っていたという。そのときに携帯電話がかかってきた。長嶋からである。

「仙ちゃん、阪神の監督やれよ! 何を迷っているんだよ! いいかい、今はもう『伝統の一戦』なんてなくなってるんだよ! 仙ちゃんがやれよ!」

阪神の低迷が続き、日本プロ野球における大きなコンテンツである「TG戦」が名前だけのものになっていることを嘆き、燃える男同士のつながりで星野の背中を押した。それを受けて星野も覚悟を決めたという。生前の星野から聞いた思わず熱くなるような話だ。

そして、この3連戦だ。「伝統の一戦」は見事によみがえったのではないか。原はピリッとしない先発・今村信貴を3回でスパッと代えた。連日の重盗も仕掛けてきた。このまま走らせてたまるか! という意地が伝わってきた。

それにも負けず、阪神は粘った。佐藤輝明、梅野隆太郎というおなじみのヒーローに安打がなくても全員で勝った。見応えある3連戦。そして阪神は勝ち越した。これは大きい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)