“決め手のないチーム”に爆弾が落ちた。勝手に書かせてもらえばそういうことではないか。夕刻に駆け巡った「矢野監督、今季限りで退任表明」の一報。関西のテレビ各局はテロップのニュース速報で伝えた。

12球団最多の77勝をマークした昨季は優勝へ最大の好機だった。そう思った虎党は多いはず。鳴り物入りで入団、前半戦は評判に負けない働きを見せた佐藤輝明の加入でチームは生まれ変わったように見えた。しかし佐藤輝の不振と比例するように失速。優勝はヤクルトにさらわれた。

CSファーストステージでの敗退が決まり、スタンドに頭を下げる阪神矢野監督(中央)(2021年11月7日撮影)
CSファーストステージでの敗退が決まり、スタンドに頭を下げる阪神矢野監督(中央)(2021年11月7日撮影)

そして今季だ。オフに守護神スアレスが流出。新加入選手に佐藤輝ほどのインパクトがある存在は、正直、いない。もちろん全体の底上げは期待できるかもしれないが、冷静に見て、昨季以上に勝てるかどうかは不透明なところだろう。

そして指揮官・矢野燿大だ。3年目の昨季、優勝を逃した段階である程度、辞意を固めていたのではないか。しかし球団側の慰留もあって4年目に臨むことになった。だからこそキャンプ・インを前に「今年で終わり」と明かしたと思う。

「勝ってやめるのが一番いいなと思ってます。現状、長く監督やりたいとは全然思っていなくて。監督にとどまりたいという思いが、僕の中で、むっちゃ強いかと言われればそうでもないんです」。これは3年目を迎える昨年の正月インタビューで聞いた言葉だ。だからこのコラムでも4年目の指揮が正式決定した日に「勝って勇退する選択肢もある」と書いた。

矢野は学生時代、教員志望。生徒とワイワイやる先生、というイメージを持っていたようだ。実際、監督になってからもそういうムードだ。教員なら異動とか定年とか引き時を事前に生徒に伝えるかもしれない。

冒頭に「決め手がない」と書いたのは客観的に見て…だ。話題性でも期待度でも「これ!」というピースのない現状。そこに今季限りで退任という覚悟を示せば何らかの影響をもたらすかもしれない。矢野がそう考えたかどうかは分からないが意図は感じる。

キャンプ前日ミーティングで選手を前に話す矢野監督(阪神球団提供)
キャンプ前日ミーティングで選手を前に話す矢野監督(阪神球団提供)

監督として矢野を好む選手も、そうでない選手もいるだろう。人間だから当然だ。それはそれでいい。それでも指揮官が決意を示したチームに、虎党はもちろん野球ファンの視線は必ず集まる。そこで活躍するのか、ヘタな姿を見せるのか。選手はそこが重要だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)