野球は面白い。マルテがわずか1日で登録抹消され、大山悠輔も不在。本塁打を期待できる打者は佐藤輝明だけ。そんな状況で思わぬ面々に1発が飛び出した。今季打撃不振の梅野隆太郎になかなかブレークできないロハス。そんな2人が本塁打。不思議なものだ。

この日、坂本誠志郎が濃厚接触者になり、離脱。さらにスタメン一塁手は糸原健斗になった。公称175センチ。プロでスタメン出場する一塁手としてはかなり小さい。本当に先が見えないシーズンになった。

「全員で乗り切るしかない。その気持ちはみんな持ってくれているので。ある意味、全員が出られるチャンスはあると思う。意気に感じながらやってもらえたら…」。指揮官・矢野燿大は言った。ここにきて自身が推し進めてきたマルチポジションが奏功している部分はあるのかもしれない。

近鉄、オリックスで指揮を執ったマジシャンこと仰木彬はよく「しのぎ野球」と口にした。なんとかしのいで形にする。最近の状況はまさにそういう感じだ。そんな「しのぎ野球」の中で地味ながら貢献しているのが山本泰寛ではないか。

この日は「6番・二塁」でスタメン。シブく光ったのは7回の守備だ。2点を追う巨人は1死一塁で大城卓三が三塁に強い当たり。これをサード佐藤輝が好捕、回転しつつ二塁へ送球したが左方向にそれてしまう。ここで山本が懸命に体を伸ばし捕球、一走・重信慎之介の封殺に成功した。

「あれは併殺が取れる当たり。佐藤輝はもう少し二塁を見てから投げれば」。NHK-BSで解説していたかつての名手・宮本慎也(日刊スポーツ評論家)はそう話していたが、その送球をしっかり抑えた山本の隠れた好守だろう。

その山本、目立つのが巨人戦の打率だ。前日は自身初の1試合4安打をマーク。この日も1安打、これで対巨人は「打率4割2分1厘」となった。金銭トレードで移籍した昨季、実は巨人戦では1安打も放てずに打率ゼロ。打席数が少ないこともあったがバットで“恩返し”はできていなかった。阪神2年目の今季は巨人戦で輝きを見せ、矢野の言う「全員野球」の一端を担っている。

これで借金4。2位巨人まで1・5ゲーム差だ。球宴までは9試合。皮算用したいところだが、まずは15日中日戦、エース青柳晃洋でしっかり取ることだ。雨が心配だが…。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対巨人 1回表巨人2死二塁、岡本和の二直を好捕する山本(撮影・河田真司)
阪神対巨人 1回表巨人2死二塁、岡本和の二直を好捕する山本(撮影・河田真司)