「そんなん、よぎったよ。そら、よぎるやろ」。指揮官・岡田彰布は率直である。抑えの湯浅京己が最後にヒヤヒヤの場面をつくった。よぎるのは悪夢の逆転負けを喫した昨季の開幕戦だ。歴史的敗戦で投げたK・ケラーが8回に失点したこともあり「いやな予感がした」と明かした。それは多くの虎党が感じていたものと同じだろう。

そんなラストもおまけに思える快勝だ。二塁にコンバートした中野拓夢の好守から始まり、開幕スタメン起用の遊撃・小幡竜平が猛打賞に美技。4回には青柳晃洋のスクイズも飛び出す。途中出場の板山祐太郎も守りで魅せた。その結果は9安打で6得点。打った手のほとんどすべてが当たって開幕戦勝利だ。

独断と偏見で書かせてもらえれば、そのスタートは2回、青柳への“三振指令”だったと感じる。DeNA先発・石田健大を攻めて、小幡の適時打などで2点を先制。なおも無死満塁で打席は9番、先発投手の青柳に回った場面だ。

なにしろ押せ押せムード。野球の常道からすれば無死満塁でスクイズ策はない。ここは打って出るか。青柳だが、それでもバットに当たれば何かが起こるかもしれない。だが青柳は立ったまま。ストレート3球を見逃して、三振。あっさりアウトになった。

「そら、そうやな」とこの瞬間、理解する。何かが起こると言っても、その「何か」が併殺打になってしまう可能性もあるのだ。そうなれば勢いはしぼんでしまう。実際、次打者の近本光司は左翼への犠飛。これで3点目が入った。

もしも青柳が併殺打を打っていれば近本で3アウトチェンジ。2点で終わっていた。こういう序盤での2点と3点の違いは大きい。快勝とはいえ、終盤にDeNA打線の反撃を受け、終わってみれば3点差で終わった試合だった。

あそこは間違いなく三振指令のはず。そう思ったが、そこは確認したい。虎番キャップたちの取材の輪が解けたとき、聞いてみた。「2回のあそこは立っとけみたいな感じですか?」。一瞬で理解した岡田はこう言った。

「そんなん、おまえ、当たり前よ。いらんことすんな、言うたよ」。単純明快な答え。これも岡田という指揮官である。この辺りの思い切り、ハッキリとした采配はできそうでできないものかもしれない。岡田阪神、まずは1勝だ。(敬称略)

阪神対DeNA 選手交代を告げる岡田監督(撮影・上田博志)
阪神対DeNA 選手交代を告げる岡田監督(撮影・上田博志)
阪神対DeNA お立ち台でガッツポーズをする、左から青柳、梅野、湯浅(撮影・上田博志)
阪神対DeNA お立ち台でガッツポーズをする、左から青柳、梅野、湯浅(撮影・上田博志)