専大北上の小村泰我内野手(3年)が、思いがけない形で8強入りを呼び込んだ。5回の守備から9番三塁で出場し、3-2の7回1死一塁。犠打のサインが出ていたが、盛岡工の好投手・安保から左越えに2点本塁打を放った。相手を突き放す、大きな1発となった。

 ベンチに戻って、初めてサインミスに気が付いた。リードを3点に広げる貴重な2ランを左翼席にたたき込んだ小村は、及川将史監督(31)と握手した。「バントだろ、と言われて。僕は盗塁だと思っていた」と笑う。今大会初打席。「反応で打ちました」と、初球の高めの甘い速球を思わず強振してしまった。

 1点リードの7回1死一塁で9番打者。及川監督はセオリー通り、犠打のサインを出した。ところが2回戦で優勝候補の花巻東に完投勝ちした、盛岡工のエース右腕安保成(あんぼ・じょう=3年)に1発を浴びせた。同監督は「走者は送りバントのそぶりを見せていた。フルスイングしてホームラン。びっくりしました。出来過ぎです。本人はすいませんって、言っていました」と、苦笑いするしかなかった。

 170センチ、75キロの小村はスラッガーではなく、外野手の間を抜ける強い打球を心掛けている。「(本塁打は)狙っていなかった。打てたらいいなと。打った瞬間はいったな、と思いました。打ててうれしかったです」。公式戦ではようやく3打席目。与えられるチャンスは少ない。結果を出したい強い気持ちが、練習試合も含めて初めての本塁打を呼んだ。

 クリーンアップで得点するのがパターンの専大北上は、控え選手が活躍した。厳しい試合が予想される準々決勝以降、明るい材料になる。06年以来10年ぶりの甲子園を目指しているが、小村は「目標は日本一」と志は高い。及川監督はサインミスに「宿舎に戻ったら、めちゃくちゃ怒っておきます」と笑わせたが、思わぬ形でラッキーボーイが現れた。【久野朗】