さぁ、出発だ。最速163キロ右腕・大船渡(岩手)の佐々木朗希投手(3年)が7日、夏の岩手大会(11日開幕)前最後の練習試合に登板した。

盛岡一(岩手)に2失点しながらも9回20奪三振。週末ごとに東北、東日本を駆け巡った練習試合の日々を、圧倒的奪三振ショーで締めた。令和の怪物、佐々木朗希。どこまで行けるのか。筋書きの読めない夏ロードが始まる。

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大船渡・佐々木が本塁打を浴びた。盛岡一の4番・高橋怜大一塁手(2年)に浮いた133キロスライダーを左翼へ運ばれた。「これはもう自慢するしかない」。喜びにニヤつきながら走る高橋の後ろに、こちらも失笑する佐々木がいた。

スイッチオン。続く5番浅野目将人外野手(3年)に156キロ、153キロ、155キロ、154キロと一気に球速が上がる。これほどの球速連発は3月末の作新学院(栃木)戦や、163キロを出した4月のU18代表候補合宿以来。失投は許されない-。20奪三振よりも、この1発が夏への何よりの刺激になりそうだ。

勝たねばならない夏。佐々木の球を知られぬよう、岩手県内の学校との練習試合は極力避けてきた。必然的に朝5時集合、バスでの長距離移動が増える。今年3月以降、7日までの総移動距離は5500キロ超(日刊スポーツ調べ)。これは日本最北端の北海道・宗谷岬と九州最南端近くの鹿児島・指宿の往復距離に相当。昨夏以降ならば日本一周旅行級(約1万3000キロ)に達する可能性もあるほど、駆けめぐった。

保護者たちも多くの日帰り遠征で応援してきたが、柏木農(青森)との練習試合を終えた6日夜は弘前市内で初の“合宿”。十数人で決起集会を開き、士気と結束を高めた。佐々木の母陽子さん(46)が「私たちの、大船渡のみんなの夢」とあこがれる甲子園。190センチの17歳が、車なら大船渡から1033キロの聖地へ、その右腕で道をひらく。【金子真仁】

▽大船渡・佐々木のこれまで

<2017年>

◆7月8日 夏の岩手大会2回戦・盛岡北戦で147キロの衝撃デビュー。「プロ? 今は考えていない。まずは甲子園に行くこと」とコメント。当時は体重71キロ(現在86キロ)。3回戦で敗退した。秋季県大会も2回戦(初戦)敗退。

<2018年>

◆7月15日 夏の岩手大会3回戦で西和賀に敗退。夏の甲子園を逃し号泣。登板はなかった。「負けた実感が湧かない。自分で引っ張って、甲子園に導く」。

◆9月24日 秋季県大会3位決定戦で専大北上に敗退。センバツ出場が絶望的になる。

<2019年>

◆3月下旬 4泊5日の関東遠征。今季2度目のブルペンで151キロ。身長が190センチにまで伸びたことを明かす。センバツはほぼ全試合自宅で録画。

◆3月31日 作新学院(栃木)との練習試合で今季初登板。日米18球団45人のスカウトが視察する中、3回1安打6奪三振。最速156キロ。「いろいろな変化球を試しながらコントロールして投げた。大人の投球をしました」。

◆4月6日 U18高校日本代表1次候補合宿の紅白戦で、2回を投げ6者連続三振。国内高校生史上最速の163キロもマーク。「緊張して力んでしまったけど、何となくいけるかなとは思っていました」。歴史的存在になったと同時に、星稜・奥川恭伸投手(3年)に「朗タン」のニックネーム要望をしたことを暴露され、顔を真っ赤にして必死に否定する。希望進路は「国内プロ1本」と明言。

◆4月20日 仙台育英(宮城)との練習試合に先発。日米20球団40人のスカウトが視察。変化球主体の投球。打では130メートル弾。

◆4月30日 角館(秋田)との練習試合に打者出場。平成最終戦は登板なし。

◆5月3日 春季沿岸南地区予選・住田戦に先発。最速140キロで「腕の振りは4~5割程度です」。釜石市の山あいの小さな球場に観客2800人が集まるフィーバーに。観客一番乗りは早朝3時半。

◆5月6日 同・高田戦は右翼で出場し4安打。

◆5月18日 春季県大会初戦・釜石戦は右翼で出場も、登板なく敗退。「すごく悔しい」と下を向く。

◆6月2日 佐久長聖(長野)との練習試合で9回13奪三振、最速153キロ。視察した日本ハム吉村GMが試合後に「間違いなく1位で指名します」と12球団最速で佐々木の1位指名を公言した。

◆6月30日 由利(秋田)との練習試合で3回6奪三振、最速153キロ。試合後には夏の大会前最後の記者会見に応じ「一緒に頑張ってきた仲間たちを、何が何でも甲子園に連れていきたい」と話した。

◆7月7日 盛岡一(岩手)との練習試合で9回20奪三振。最速156キロ。

◆7月15日(予定) 悲願の甲子園へ、夏の岩手大会の初戦(2回戦)・遠野緑峰戦を迎える。