花巻東を「勝利の女神」が後押しした。白と紫の袴姿で、今夏の応援団長を務める小川蓮菜(はな)さん(3年)。同校の女子団長は史上初。本来は陸上競技部の選手だが、同級生の最速147キロエース右腕・西舘勇陽(3年)の力となるべく名乗りを上げた。3-0で迎えた9回表に花巻北に逆転を許したが、同裏に同点に追いつき延長戦突入。リードを許しても表情を崩さずに勝利を信じ続けたが、サヨナラ勝利には涙をこらえきれなかった。

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花巻東のスタンド最前列の壇上に、愛らしい小川団長が仁王立ちした。引き締まった表情で球場内の選手たちを見つめ続ける。延長10回裏に4番水谷公省内野手(2年)が右翼フェンス直撃適時打を放ち、同級生の中森至外野手(3年)がヘッドスライディングで本塁生還。「泣いちゃダメと思っていたので耐えていたのですが、野球部のみんなが苦労してきたことを知っているぶん、勝った瞬間にこらえきれませんでした」。校歌を歌う時には大粒の涙が頬をつたった。

本来は東北大会に出場するほどの陸上選手。走り幅跳びや三段跳びが本職だ。各クラスから数人ずつが応援委員会を結成するが、団長立候補者がいなかった。たまたま練習会場を通りかかって“スカウト”され、ビビビ。「今まで男子の団長しかいないというのも聞いて、花巻東の歴史をつくれると思った。応援したい熱い気持ちは誰にも負けません」。胸を張った。

団長のスタイルも変えた。衣装を制服から変更。白の学ランも候補だったが「袴がいい」と懇願。当初は選手のユニホーム文字と同じ紫と黄色が入った白基調だったが「勝利の白と高貴な感じもあるチームカラーの紫に決めました。最初はこの衣装を着られるだけでうれしかった。お気に入りです」。小学生時代の運動会でも応援団長を務め、和太鼓パフォーマンスでは全国大会に何度も出場する活発娘だが「男子と同じでは意味がない」。大声を張り上げるのは、両校エールの交換のみ。じっと選手を凝視するスタイルを貫き、応援スタンドの象徴となることも決断した。

甲子園の抽選会次第ではリレーの補欠に選出されている全国総体と甲子園1回戦の日程が重なる。「まずは甲子園に一戦必勝で行くこと。野球部の選手たちも『初戦で負けないから』と言ってくれている。今日の試合は1度リセット。みんなを信じています」。蓮菜(はな)の名前のごとく、花巻東スタンドに花が咲いた。【鎌田直秀】