今こそ、指導者の真価が問われる。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言は延長の見通し。既にインターハイが中止となり、高校野球を取り巻く環境も厳しい。センバツ、春季大会に続き、夏の選手権も開催が危ぶまれている。未曽有の事態で、指導者は選手たちとどう向き合えばいいのか? 元横浜高監督の渡辺元智氏(75)は選手権開催を切に願いつつ、最悪も想定した行動を訴えた。

   ◇   ◇   ◇

渡辺氏は一言ずつ絞り出すように話した。「夏は何としてもやってほしい。プロを目指す子も、そうじゃない子も、甲子園でやりたいというのが共通の願い。もし中止なら、どう慰めていいのか。高野連も球児のために全力で模索していると思う。ただ、国難の中、球児には本当に気の毒ですが、最悪も考えておかないといけません」と、夏も中止となる事態を想定した。

多くの高校が休校で、部活動は休止。現場を預かる指導者は、どう選手たちと向き合うべきか。半世紀近い監督経験から2つを挙げた。まずは「開催を信じ、一生懸命、頑張らせる」。自宅で1人でもできる練習はある。「素振りはコースや球種を考えて。メンタルトレーニングもある。松坂(現西武)にも座禅をさせました。『ノートの甲子園』と言って、監督になったつもりで9イニングを考えさせる。考える力が養われる」。ただ同時に、2つ目の行動が大事となる。最悪を考えた言葉かけだ。

まだ開催可否は出ていない。それでも、特に3年生には、今のうちから中止となった時のことを考えさせるべきという。「最悪の決断が出た時、『全てを失った』と思わせないようにです」。具体的には、どう言えばいいのか。一例を挙げた。「君らは目標を持って必死にやってきた。その努力は必ず、いろんな分野で生かされるはずだ。もし中止になっても、悔しさを違った形で出せる。家族や世の人のため、何か頑張れることはないか。野球を続けるなら、大学、社会人、独立リーグ、軟式、いろんな選択肢がある。もし夏の大会ができなかった時、君たちは何ができるかな。備えていけよ」。

言葉が大事だという。「球児に、どう伝えるか。指導者の真価が問われます。難しい状況ですが、甲子園で優勝する監督以上に、価値観の高い監督が生まれる可能性があると思います」と結んだ。【古川真弥】

◆渡辺元智(わたなべ・もとのり) 1944年(昭19)11月3日、神奈川県生まれ。横浜高では3番中堅手。神奈川大から65年に母校コーチを務め、68年に監督就任。98年に甲子園春夏連覇、国体も制し史上初の3冠達成。甲子園は春夏計27度出場し5度優勝、歴代4位タイの51勝。15年夏の神奈川大会を最後に勇退した。