東海大菅生が国学院久我山を下し、17年以来4年ぶり4度目の夏の甲子園出場を決めた。日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(61)は、勝負を分けたポイントに東海大菅生の3、4回の攻撃を挙げ、試合の潮目をひもといた。

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2点を追う3回裏の東海大菅生の攻撃に、この試合の流れを分けるワンプレーがあった。2死走者なしから2番福原が中前打で出塁。続く堀町のカウント0-2からの3球目に福原はスタートを切る。この時、国学院久我山の捕手黒崎は左膝を地面についた捕球姿勢だった。

捕手が膝をつく利点は捕球しやすいことがある。ただ走者がいる時、もしくは走者のスタートが予想される時は膝はつくべきではない。膝をつくと次への動きが遅くなってしまう。

黒崎の送球はわずかに遅れ、そして高くなり、二盗は成功。2死二塁となり、状況に変化が起きた。得点差は2。国学院久我山の外野陣はわずかに前目にポジションを取る。定位置よりも1メートルほど前に出ることで、単打による二塁走者の生還を阻止しようという狙いだ。

堀町の左中間に上がった打球はややレフト寄りだった。2点差で仮に2死一塁なら、センターとレフトが飛び込むことはなかったと想像できる。しかし、2死二塁で「1点差にしたくない」「何とかしたい」という思いから、不運にも両者が重なるよう飛び込み転倒。打球は左中間フェンスまで転がり、同点ランニングホームランになった。本来ならレフトが飛び込み、センターはバックアップということだが、高校生が甲子園をかけた決勝では、2人が無我夢中で飛び込んだプレーは痛いほど分かる。

東海大菅生の捕手福原は初回の守備で、三塁走者へのピックオフプレーを狙うも、ボールを握り損ね悪送球。先制のホームを許していた。ただでさえ、先発左腕本田の立ち上がりが悪く、福原としてはダメージの大きなミスだったが、試合中盤にかけて、このミスを取り戻している。

同点に追い付いた直後4回だ。先頭打者に四球を与え無死一塁。ここで国学院久我山・藤原のバントは小飛球となるが、福原は非常に素早い反応でダイビングキャッチ。走者の二進を許さなかった。1死二塁と1死一塁では大きな違いだ。このプレーで初回のミスを完全に取り戻した。

さらに、東海大菅生は同点の4回の攻撃で、1死一塁から打者本田がバントの構え。ボール、ボール、バントがファウル、見逃しストライクでカウント2-2。ここで国学院久我山の一塁原田はバント処理に備え投手がセットポジションの時に、すでに前に出ていた。一塁走者金谷はこれを見逃さず、2-2からスタート。本田のバスターも決まり一気に1死一、三塁と勝ち越し機を広げ、次打者千田の決勝3ランにつながっていく。

国学院久我山とすれば、原田が前目に動いてから一塁に戻り、そこへけん制という動きを1度でも入れておけば、金谷もスタートが切りづらかった。逆に言えば、東海大菅生の積極的な走塁は非常にレベルが高い。このほかにも、3回2死から四球で出た小池が、次打者岩井の左前打で一塁から三塁に進塁。5回には先頭打者岩井が、左中間寄りの当たりに対して打球処理に入ったセンター斎藤の体の向きなどを見て一気に二塁を陥れるなど、チームとして徹底されている。甲子園でも意欲的な走塁で、高校野球ファンをうならせてほしい。

国学院久我山は初回に機先を制して2点を奪った攻撃は見事だった。4回以降は東海大菅生の継投に、チャンスらしい場面を作れなかったのは残念だった。(日刊スポーツ評論家)