<高校野球宮城大会>◇9日◇開会式

 第93回全国高校野球選手権大会は、新たに25大会が開幕し、27大会が行われた。東日本大震災の被害が激しい東北のトップを切って宮城大会が始まり、全国で唯一、震災後に1度も大会を開けなかった宮城に球音が戻った。Kスタ宮城で行われた開会式では、亘理(わたり)町にある自宅が津波で全壊した柴田の佐藤裕次主将(3年)が選手宣誓。昨夏の部内暴力事件で迷惑を掛けた先輩のユニホームを着て大役を全うした。

 柴田の佐藤主将は、復興に踏み出す姿勢を言葉で鮮明にした。「いつまでも、下を向いていては、何も変わりません」。宣誓台には「マイクに頼らず、自分の声で届けたかった」と上がらなかった。地声を張り上げ「今大会を通して勇気や感動を与えられるよう、熱く、元気よく、精いっぱい戦います」。込み上げる思いを1分36秒に凝縮した。

 参加77校中、立候補した43人の主将の中から射止めた大役だった。亘理町荒浜の自宅は津波で全壊。「大事な物でも、探す気がうせるほど」壊滅した地元を思い、津波にのまれた友人を思い、避難所生活で支えてくれた人を思い、1人で2日間かけて文言を考えた。

 汗と涙が染み込んだ試合用ユニホームも流失した。新調を覚悟した時、野球部の1学年上の山田大生さん(19)が言ってくれた。「俺のを貸してやる」。あれほど、迷惑を掛けたのに。

 柴田は昨夏、15年ぶりの第4シードから初の甲子園を目指した。だが開幕直前の6月、佐藤と同学年の、当時の2年生による部内いじめが発覚。関与していない3年生と1年生だけで出場し、3回戦で散った。佐藤は大会後、3年生ひとりひとりに謝罪して回った。

 「絶対に許さない。そう突き放して卒業した方もいた」(佐藤)。その中で、後輩が示した更生プランを信じてくれた1人が山田さん。不本意な形で引退が早まっても、助けてくれた。

 昨年の秋季大会は出場辞退。今年の春季大会は震災の影響で中止となり、佐藤にとって今夏が最初で最後の大会になる。「野球ができる喜び、環境にあることを人々に感謝し、正々堂々と戦う」。宣誓は守る。先輩のユニホームに、うそはつけないから。【木下淳】◆選手宣誓全文◆

 3月11日、あの日の東日本大震災から、4カ月がたとうとしています。私も含め、被害を受けた多くの方々は、普通に生活できていたことが、どれほど幸せだったかということを、あらためて実感していると思います。

 人は、支え合い、協力することで、希望を見いだし、未来へ進むことができると信じています。いつまでも下を向いていては、何も変わりません。

 だからこそ私たちは、今大会を通して、勇気や感動を与えられるよう、熱く、元気よく、精いっぱい戦い、野球ができる喜び、そして環境にあることを人々に感謝し、全力プレーで正々堂々と戦うことを、誓います。

 平成23年7月9日柴田高等学校、佐藤裕次