「重光先生の野球を多くの人に見てもらいたい」。大分県の大分自動車道のバス事故で、野球部監督の教諭重光孝政さん(44)が死亡、部員ら23人が重軽傷を負った森高校は10日、保護者会を開いて対応を協議し、開催中の大分大会に出場することを決めた。夜には国東市内で重光さんの通夜が営まれた。県高野連は事故に遭った部員らに配慮し、12日に予定していた同校と中津北との初戦を1日延期、13日の1回戦最終試合に変更した。

 痛ましい事故から一夜明け、玖珠町の森高校で野球部の部員や保護者ら計約60人が集まって、大会出場について協議した。話し合う中で、参加した部員20人の気持ちはひとつだった。「重光先生の野球を多くの人に見てもらいたい」。保護者も部員の意思を尊重し、出場の意向を学校側に伝えた。山崎隆典校長(57)が「出場をお願いしたい」と県高野連に報告した。

 重光監督が指導してきたのは「全力疾走、絆、あいさつ」。亡き監督の遺志を心に刻んだ部員は、試合で「重光野球」を実践するつもりだ。大会出場の意向は学校側から重光監督の遺族にも伝えられ、「ありがたいことです」という返事があったという。遺族からは葬儀を当初の試合日の12日ではなく11日とすると打診された。「それを遺族の気持ちだと忖度(そんたく)しました。私個人も重光監督の作り上げてきたチームが多くの方に見てもらえるのはうれしいことだと思う」と、後藤輝美教頭(52)は説明した。

 県高野連も大会出場を決めた同校への協力態勢を取った。試合日を1日遅らせて1回戦の最後となる13日第2試合に変更。本来なら開幕直前で締め切る責任教師、監督の登録変更や選手登録の変更も特例として認めた。県高野連の河室聖司理事長は「変更はシートを提出する直前まで待ちます。十分配慮していきたい」と話した。

 事故後は重光監督の長女でマネジャーの咲希さん(3年)をはじめ7人が入院し、10日も4人が入院中。学校には臨床心理士など心理学専門のチーム11人が県から派遣され、部員がカウンセリングを受けた。心理的、肉体的にも乗り越えなければならないものは多い。それでもナインは力強く前へ踏み出そうとしている。【前田泰子】