<高校野球宮城大会:古川工3-1東北>◇25日◇準決勝

 東北の上村健人主将(3年)は、あふれ出る涙を、こらえることができなかった。「自分が知らない人にも、応援してもらった。夏の甲子園で絶対に恩返ししたかった」。8回8安打3失点と粘り強く投げたが、古川工に惜敗。4カ月前に立った夢舞台に再び立つことはできなかった。

 東日本大震災直後にセンバツに出場した。エースで4番の主将にとって、憧れ続けた甲子園は苦しいものでもあった。大きな期待を背負って出場し、殺到する取材への受け答えで頭の中がいっぱいだった。甲子園に着いて「来て良かったのか」という思いもあったという。副将の小川裕人(3年)は「つらそうだった」。父一夫さん(43)は「1つのことにガッと集中するタイプだが、全く集中していない感じだった」と振り返る。

 1回戦で大垣日大に敗れて仙台に戻っても、悩みは尽きなかった。親族を亡くした部員や友人がいる。「夏に向けてすぐ(全員で)同じ方向を向けなかった。切り替えようって、自分たちが言っても難しい」。神奈川・相模原市出身の上村は、心のモヤモヤがなかなか晴れなかった。

 もがき苦しんだ4カ月で、得たものがある。「ありがとうと言われる時は、相手がうれしいから言うんだと思っていた。でも、言われると、自分もうれしいと感じた。今までとは違う感じで元気をもらった」。センバツ前後のボランティア活動や周囲からの支援を受ける中で感じたことだ。

 好きな野球に、思い切り打ち込めたとはいえないかもしれない。甲子園に戻るという目標はかなわなかった。だが、震災からこの日までのことは「野球以外でも今後、絶対に生きる」。心の底から、そう思っている。【今井恵太】