<全国高校野球選手権:東海大四6-1九州国際大付>◇14日◇1回戦

 計測不能の超スローボールで、甲子園の観客を味方につけた。南北海道代表・東海大四のエース西嶋亮太投手(3年)が、プロ注目の強打者が並ぶ九州国際大付(福岡)を緩急で翻弄(ほんろう)し、12奪三振の5安打1失点完投で勝利に導いた。北海道の投手では、夏は06年田中将大(駒大苫小牧)以来の2ケタ奪三振。168センチの小柄な右腕が、V候補撃破で夏21年ぶり白星の原動力となった。

 どよめきが、4万7000人で膨れ上がった甲子園に響いた。電光掲示板に、球速は表示されない。東海大四のエース西嶋は「甲子園を楽しんでいました」。4回のマウンド。先頭の3番古沢への初球だ。相手をあざ笑うように、山なりの超スローカーブで観客の視線を独り占めすると、完全にスイッチが入った。

 「歓声を力に変えて、どんどん投げた」と中飛に打ち取ると、続く4番清水をアウトローいっぱいの直球で見逃し三振に。終わってみれば、4者連続を含む12奪三振。168センチ、59キロの細腕エースが、福岡大会で1試合平均9点以上をたたき出した大型打線を、面白いようにもてあそんだ。

 技がきらめく153球だ。直球は球速140キロに届かないが、得意球のスライダーに加えて、スローカーブと50キロ台の“超遅球”を遊び球として操る。昨夏の南北海道大会で延長10回、サヨナラ負けしたことをきっかけに「終盤、息切れしないため」に覚えた省エネ球だ。女房役の上野は「(試合で使うのは)無理だと言ったけど『どうしても使いたい』とわがままを言うので」と、今春の公式戦から投げるようになった。

 握りは通常のスローカーブと変わらない。この日はプロ注目の中軸2人に対して全4球を投げ「相手がイライラしていたので、さらにカッカさせる目的もあった」。目先を変えるだけでなく、いら立ちまで誘う投球に、捕手出身の大脇英徳監督(39)も「よくここであんな球を投げられる。大したもの」と舌を巻いた。

 大阪入りしてからは慣れない気候で体調を崩し、開会式のリハーサル後にこっそり病院で点滴治療を受けた。それでも、弱音は吐かず、酸素カプセルに入って疲労回復に努めるなど本番へ向けて準備した。「優勝するまでは、満足せずに頑張りたい」。2回戦の相手は山形中央に決まった。技巧派右腕は、頂点だけを見据えている。【中島宙恵】

 ◆西嶋亮太(にしじま・りょうた)1996年(平8)4月10日、北海道帯広市生まれ。帯広東小1年で野球を始め、中学3年の時には日本ハムファイターズジュニアに内野手で選抜。12球団ジュニアトーナメントで準優勝した。東海大四では1年春に背番号10でベンチ入り。好きな投手はヤンキース田中将大。4学年上の兄は同校の10年度主将。168センチ、59キロ。右投げ右打ち。