ついに打率でもトップに立った。ヤクルト山田哲人内野手(23)が広島14回戦で3安打の固め打ちだ。打率は3割3分4厘と、同僚の川端(3割3分3厘)を抜き、首位打者の座に上りつめた。7回のソロで本塁打は24号、1回に二盗を決め19盗塁もリーグトップで“変則3冠王”に躍り出た。トリプルスリーの可能性を感じさせる男が、首位を走るチームの躍進を支える。

 闘争本能に火が付いた。7回、目の前で川端の本塁打を見た山田は、超積極的打者となって打席に入った。「直球でも変化球でも、ストライクゾーンに来たら、どんな球でも振っていこうと思っていました」。そこに来た、おあつらえ向きの高めのスライダー。左翼席への派手な1発で首位打者の座を奪い取った。

 状況は分かっていた。第3打席までは3糸差で川端が首位打者だった。第4打席、2人でそろって本塁打を放ったが、その時点の打数で12少ない山田が3糸差で抜いた。「まだ試合は残ってるし、今が1位なだけ。これからどうなるか分からない」と言いつつも「波が来ている」と好調を実感した。

 セ・リーグの打撃部門のトップを総なめしそうな勢いだ。この日1個決めた盗塁でも単独トップに立った。だが、記録を追求する意識は山田にはない。「去年までよりも、チームの勝利に貢献したいっていう気持ちが強いんです」と言い切る。真中監督も「どうでもいい場面とかだと、あいつ走らなかったりするんだよね。価値のある場面で走ってくれる。そういう面では好感が持てるよね」と山田の数字が持つ真の価値を裏付けた。

 記録に固執しない一方で、観客の入りやグッズの売れ行きを気にかけている。7月上旬のある日、試合前の打撃練習を室内練習場で行い、クラブハウスへ戻る途中だった。グッズの売店の前で足を止め「山田グッズは売れてますか?」と店員に問いかけた。「一番売れてます」という返答を喜んだ。「打てばグッズも売れるし、歓声も浴びられる。それが僕のエネルギーにもなる」。この日も2万8956人が入った神宮球場の歓声を気持ち良く浴びた。相乗効果だった。

 日本球界で、トリプルスリーに最も近い今の打撃の状態を「待ち方がいい。直球待ちで変化球が来ても、前に突っ込まずに打てている」と自己分析する。だから、この日の本塁打のようにコースで待っていても強い打球が打てる。師匠にあたる杉村打撃コーチは「思い切りの良さと、甘い球を逃さないのはすごい。相手も研究してきているけど、それを乗り越える頭の良さがある。恐るべき23歳だね」と、驚き交じりに褒めたたえた。【竹内智信】

 ◆トリプルスリー 同じシーズンに打率3割、30本塁打、30盗塁を記録すること。02年松井(西武=現楽天)まで8人が達成している。50年には別当(毎日)と岩本(松竹)の2人がマークした。