縛られていた心が、少し解放された。日本ハム中田翔内野手(27)は、うつむきがちにダイヤモンドをまわった。オリックス戦1回1死二塁。フルカウントまで追い込まれながら、左翼席へ運んだ先制の5号2ラン。会心の当たりではない。打った瞬間は、思わずバットを投げ捨てた。「まさか入るとは」。だが、4日ソフトバンク戦以来6試合ぶりの1発は、チームを連勝、5割復帰へと導いた。

 心の中では憤慨していた。この日の試合前練習中。核心を突かれ、スイッチが入った。白井内野守備走塁コーチ兼作戦担当に、大谷と比較された。「投手やりながら片手間で6本打っているのに、なんで毎日出てる4番が4本なんや」。

 静かに聞いていたが、前日10日の同戦は、3三振を含む4打数無安打。「何一つ満足出来ることがなかった」。3戦連発の大谷と違い、勢いに乗り切れない自身に、腹を立てていた。やるせない怒りを、隠せなかった。ティー打撃で、ボールを投げる裏方スタッフに「もっとゆっくり投げろや」と八つ当たり。ロングティーではトスをあげる位置が気に食わず、声を荒らげ、早々に切り上げた。

 重荷になっていたフラストレーションは、ほんの少しだけ解消された。「特別、僕が足を引っ張っていたので、考えすぎちゃっていました」。不振の峠を越え、あらためて今できることを実感した。「今後、調子のいい打者の邪魔をしないように頑張っていきたい」。冷静に見つめ直すことができた不動の4番は、自身も納得できる爆発の時を待つ。【田中彩友美】