いまさらでも、遅すぎでもない。散々苦しんだ阪神藤浪晋太郎投手(22)にとって、意味ある1勝だ。今季0勝4敗と打ちのめされた広島戦で、5安打1失点の完投勝利を挙げた。完封目前の9回1死で広島鈴木にソロを浴びたが、8奪三振の安定感で優勝したカープ打線を圧倒。4年目の今季、最終登板の可能性が高いマウンドで、7勝目と来季への手応えをがっちりつかみ取った。

 藤浪は即答した。8回終了時点で132球。三塁側ベンチに戻った直後、金本監督から続投の意思を確認されて訴えた。「ぜひ行かせてください!」。

 4点リードの9回裏。1死から同学年の鈴木に、見え見えの直球勝負でバックスクリーンまで運ばれた。「あっさり行かれました。完敗でしたね」。完封を逃し、137球で5安打1失点の完投勝利。苦笑いの7勝目に、来季逆襲へのヒントがちりばめられていた。

 「バランスよくしっかり立って、打者との距離を詰める。その辺を意識して。真っすぐで押し込めている感覚はありました」

 前回14日の広島戦(甲子園)。リリースポイントを限界まで前に修正したフォームで自己最速160キロを計測した。一方で6四球と乱れもした。今回は最速こそ153キロと控えめながら安定感、キレは抜群。直球でコースを狙い、ボールゾーンに沈むフォークで空振り。8奪三振3四球の数字に充実度が現れた。

 苦々しい記憶を忘れない。昨年6月21日の甲子園ヤクルト戦だ。「自分のふがいなさに腹が立って…」。2点を勝ち越した直後の6回裏1死二、三塁で代打を送られた。球数はまだ115。こわばった表情のままベンチ奥に座ると、帽子を激しく椅子にたたきつけた。

 「オレ、ここまで信頼してもらってないんやって、情けなくなったんです」

 めったに見せない激高シーンには大黒柱の責任感とプライドが詰まっていた。勝利のためなら、常に身を粉にしたい性分だ。苦悩した今季、せめて最後は9回を投げ切ることでざんげの思いを表現したかった。

 「なんとか最後、カープに勝てて良かった。それ以上に自分の投球をできたことが良かったです」

 試合前時点でチームは今季広島戦に6勝18敗と大きく負け越していた。藤浪も6戦で0勝4敗。16年最終対決でなんとか意地を見せた形だ。金本監督からは「あそこまでいけば完封を見たかったけどね」と突っ込まれつつ「真っすぐでも空振りを取れていたし、押し込む直球に見えた」と及第点を与えられた。

 「試行錯誤して、遠回りして、やっと最後にいい感覚が出てきました」

 9月30日からのシーズン最終2連戦までに順位が決まれば、今回が今季最終マウンドとなる。1年間つきまとわれた苦悩に別れを告げられた、その意味合いは大きい。【佐井陽介】