登板後の加藤は、いつものように淡々と振り返った。立ち上がりは制球が乱れたが、ブルペンから不安視された制球には一定のまとまりがあった。5回1死から四球を与えるも、同じくWBC組の田中と菊池に力勝負を挑んだ。いずれも高めの真っすぐで力のないフライに切った。鈴木には、3ボールとなりながら3-2とカウントを整えて、最後は内角低めにズドン。7球すべて直球勝負だった。「変化球もありかと思いましたけど、まだ真っすぐでいいかなと思った」とさらりと振り返った。

 「鈴木誠也」の名は、中学時代から都内では有名で加藤も知っていた。幼少期から野球一筋で鍛えられた鈴木と違い、加藤は文武両道。野球を始めたきっかけも、脳にいいからだった。小学生時代に「肥満体形」と指摘されたため、脳への影響を考慮して、まずはサッカーを始めた。だが、体形からポジションはゴールキーパー。運動量が少なく、思った効果が得られなかったことで野球を選んだ。そして今、同じ舞台に立っている。

 段階を追うごとに投球内容を上げる新人右腕は緒方監督からも「打者がみんな球に負けている。球に力があると感じた」と認められた。ふてぶてしさばかりが目立った右腕が、ようやく投球で輝きを放った。【前原淳】