慎之助、いざ王手! 巨人阿部慎之助内野手(38)が広島戦19回戦(マツダスタジアム)で9回に左前打を放ち、2000安打まで、ついに残り1本とした。試合はエース菅野で0-1と痛恨の敗戦を喫し、今季2度目の広島戦カード勝ち越しは持ち越された。今日13日の3連戦最終戦で、球団生え抜きでは5人目となる金字塔を打ち立て、その打棒で勝利を添える。

 地に足をつけて軸回転でバットを旋回させた。1点を追う9回1死、阿部が好投する広島薮田と対峙(たいじ)した。表情一つ変えずに打席に入る。大きく息を吐き出し、どっしりと構えた。カウント0-2からの3球目。内寄りの135キロ変化球をはじき返し、左前に落とした。プロ通算1999本目の“王手打”を土壇場でマーク。大台まであと1本とし「うん。でも、その前に勝てなかった。智之(菅野)が粘って粘って粘って、一生懸命投げていた」と険しい表情のまま話した。

 より高く、さらに上を目指して突き進んできた。プロ17年目、38歳の主砲は円熟期を迎えている。2月の宮崎キャンプ中に訪れた高千穂町にある高千穂神社を訪れた。境内にそびえ立つ高さ155メートルの御神木に目を奪われた。阿部が驚いたのは高さではなく、幹の太さだった。樹齢約800年の大木に「こんなに高いのはすごいけど、もっとすごいのはこの太さよ。土台がしっかりしていないと高くはならないということだと思う」。地面寸前の幹の太さこそが野球選手としての姿勢とつながると悟った。

 「神々のふる里」と言い伝えられている九州最大のパワースポットで大記録までの道筋を回想した。「浮足立たずに、どっしり行く。その先に高みがあるはず」と自分自身と再確認した。あと1歩で“巨人の神様”たちが待つ領域に入る。生え抜きでは史上5人目、うち大卒では長嶋茂雄終身名誉監督に続き2人目。21世紀になってからのドラフト入団選手では史上初の2000安打達成者として名を刻むことになる。

 白木のバットの根もとで詰まりながら放った1本。打感が手のひらに、じんわりと残る。あと1本。「あまり意識せずに、1位2位のチームに勝ち越して、帰りたい」と平然と言った。百戦錬磨の阿部が、まだ見ぬ景色はすぐそこにある。【為田聡史】

 ◆高千穂町 宮崎県最北部にあり「ニニギノミコトの天孫降臨神話」の場所といわれる。天照大神(あまてらすおおみかみ)が隠れたと伝えられる「天岩戸」を御神体として祭る「天岩戸神社」など、神秘的な名所が点在し「神々が住む町」としても人気。高千穂峡は阿蘇山の火山活動で噴出した火砕流が流れ出し、固まってできた峡谷。平均80メートルの高さの断崖が約7キロも続く。峡谷内には日本の滝百選「真名井の滝」がある。