最速154キロを誇った「下町のダルビッシュ」の姿は変わり果てていた。ソフトバンク育成、吉本祥二投手(24)が最後のマウンドに上がったのは、10月5日の2軍-3軍戦(タマホームスタジアム筑後)だった。球速130キロ台前半の直球が荒れに荒れ3連続四球。三振をひとつ奪ったが、左前2点打を浴び、1イニング持たずに交代となった。

 「終わったなと自分でも思いました。ブルペンでは140キロを超すけど、マウンドに立つとどこにいくかわからない」。投球イップス(心理的緊張からミスする症状)だった。右肩は骨挫傷で悲鳴をあげ、心身ともにボロボロだった。

 11年ドラフト2位で入団。1位の武田と将来の先発の軸と期待された。3年目の夏に腰椎分離症にかかり、そのオフ育成として再契約した。5年目の昨季、秋季キャンプで調子を上げた吉本は、この春育成投手でただひとり春季キャンプA組スタートを勝ち取った。

 スカウトがヤンキース田中レベルの直球を投げると評価。すごい野球選手だったが、プロ野球選手には向いていなかった。もともと近い距離の送球が苦手だった。キャンプで投内連係のノックを受け、二塁へ悪送球。満員のスタンドのざわめきが胸に突き刺さった。心が折れたままブルペンで投球練習しても暴投続き。わずか数百人のファンのざわめきに心を乱されては、3、4万人が集まる1軍マウンドで投げられるハートではなかった。6月には田之上3軍コーチと鹿児島の青隆寺に厄払いに行くなどしたが、2軍にも戻れなかった。

 だが、その繊細さ、優しさ、誠実さを球団はしっかり見ていた。東京・汐留のソフトバンク本社で営業管理部門の社員として再出発する。「今でも野球の夢見て、ストライクが入らないんですよ。球界というすごい世界で6年間やってきた。いろんな人ともコミュニケーション取ってきました。大卒の新人には負けませんよ」。モデルばりのイケメンは笑顔で自信たっぷりに答えた。

 第2の人生では、その優しさがきっと武器となる。【ソフトバンク担当 石橋隆雄】