ソフトバンク退団が決まった翌日の11月6日に、松坂と話す機会があった。「まだ投げられます。日本で投げられるのが一番ですが、招待選手としてメジャーのキャンプで上を目指すのか、それがかなわないなら韓国でも台湾でも、どこでも行きます」と現役続行への強い思いをにじませた。

 日本シリーズ中に表面化した松坂退団のニュース。来季の戦力構想から外れたことを球団から通告されたのは、新時代の到来を告げる早実・清宮ら次世代を担う選手たちのドラフトが行われた時期と重なる。当初は「コーチ兼任での育成契約」と伝えられたが、実際はコーチの肩書はなく、純粋に育成契約で復帰を目指す提案が打診された。

 退団が発表された日、ソフトバンクの日本一メンバーが送別会を開いてくれた。1人1人に別れを告げながら、まだ退く意思がないことも伝えた。この時期にブルペンで投球練習を再開し、「まだ戦える」という感触もあった。「僕は育成選手じゃない」という。魂の叫びが伝わってきた。

 レッドソックス時代の2年目に誕生した長男も来年10歳になる。単身生活が続き、日本から米国の自宅に戻るたびに足元から離れなかった長男が、最近は「パパ、投げて」とせがむようになった。

 「今が正念場。野球がやりたいだけなんです」。約束された将来はなく、海図なき航海に追い込まれた現実も自覚している。「平成の怪物」と呼ばれた男が現役にこだわる声は切実だった。【07~10年メジャー担当・山内祟章】