ルーキー“81番目”の男が下克上を起こす。DeNAドラフト8位楠本泰史外野手(22=東北福祉大)が2月28日、沖縄・宜野湾キャンプ最終日に韓国・SKとの練習試合で先発。侍ジャパンで不在の筒香に代わって3番左翼に座り、先制適時打でチーム唯一の打点を挙げた。昨秋ドラフト全82人中、最後から2番目に指名。今キャンプ通じてラミレス監督も「予想外」と認める活躍で、開幕1軍を猛アピールした。

 成り上がるには、打ち続けるしかない。楠本には分かっていた。3回2死二塁の得点圏は、願ってもないチャンスだった。相手投手のチェンジアップに「うまくバットが引っかかってくれた」と右前先制適時打を放った。3番左翼は筒香の定位置。不在の主砲に代わって入り「空回りしないようにしようと、自分のプレーをしようと、言い聞かせていました」と、チーム唯一の得点を演出し、下克上キャンプを締めくくった。

 韓国王者のKIAからサヨナラ2ランを放ち、巨人とのオープン戦ではソロアーチ。4打点で楠本の打棒が振るった今キャンプだった。ラミレス監督も「一番2軍に近いと思っていたが、日を追うごとによくなって印象的な1人になった」と予想を覆すプレーを見せた。それでも1カ月を振り返った楠本が「足元を見つめながら必死さを忘れないでやっていきたい」と繰り返すのは、自分の立ち位置を理解しているからだ。

 2軍にもっとも近い選手であり、ドラフトでは81番目のルーキーだった。昨秋指名選手全82人の中で81番目。大学日本代表で4番を打つ打撃力は評価されていた一方で、守備を懸念した球団が次々と指名を終了。最後まで残ったDeNAが、ドラフト会議のテーブル上で話し合い、最終的に三原代表が「行きましょう」とゴーサインを出した。

 だから、打つたびに楠本は言う。「ホッと安心なんてできるはずがない。1つのミスでいつ落とされるか分からないのがプロ。できることを精いっぱいやることを忘れず、がむしゃらにやっていきます」。この熱く謙虚なハートが、下克上を巻き起こす。【栗田成芳】