ハラグチ~! 首にタオルを巻いた汗だくの少年が叫んでいた。背番号94の大きな体に、無数の視線と期待が注がれていた。それを一身に受け止めた阪神原口が放った打球は、大声援とともに右翼線の内側をなぞるように転がった。

 1-3の9回2死。そんな窮地から代打鳥谷が四球を選んだ。ネクストサークルに控えていた原口の気持ちに火がついた。

 「2死からトリさんが粘って四球で出てくれた。あれで、まだ分からない試合展開になったので、つないでいく気持ちでした」

 2球で追い込まれてからの3球目。原口は大きく息を吐き、切り替えた。バットを少しだけ短く握り替える。広島の守護神中崎の得意球、外角へのスライダーを強振せず、こつんと当てると打球は最高のヒットゾーンへ。2死一、三塁。1発出れば逆転サヨナラの場面にまでもっていった。

 28打数14安打。今季の代打打率を、また驚異の5割に戻した。この日の出番は試合の最後。試合展開をベンチや、ベンチ裏で見ながら、いつ来るか分からない出場機会に準備する労力は大きい。1打席にここまで集中できている理由を問われると「しっかりゲームに入っていくことだけです」とシンプルに答えた。浮き沈みがある打撃陣の中で、仕事人・原口は変わらず結果を出し続けている。

 広島ジョンソンからあと1本を出せず、ただでさえ暑すぎる甲子園に、不満ばかりが渦巻く3時間20分だった。その最後に少しだけ原口が留飲を下げてくれた。もちろんそれでは物足りないし、原口も喜べない。夏休みの絵日記に残したくなるような、勝利に導く一打を子どもたちも期待している。【柏原誠】