無心でバットを振り切った。同点の8回無死満塁。代打で登場した阪神大山が吹っ切れた。「打つしかないと思った。強い気持ちで打席に入りました」。ファウルで粘った6球目。真ん中高めの151キロ直球に反応。中前に押し込んだ。

 「正直打ったときのことは覚えていなくて。ヒットになってくれてよかった」

 キーになったのは5球目に引っ張り込んだ痛烈ファウル。「ファウルが(三塁走者の)中谷さんに当たったので、ちょっとあれで緊張が解けたかなと思います」。先輩のお尻への直撃ライナー。緊張感漂う場面での思わぬ一幕で、心に余裕が生まれた。

 期待された2年目は開幕スタメンを勝ち取ったが、結果が出ず定位置を剥奪された。ベンチを温める日々を過ごし、2軍落ちも経験。何よりも際立ったのが「勝負弱さ」だった。今季満塁では15打席安打なし。得点圏打率も1割台だった。

 打席での怖さを知った。「自分の中では分かっているつもりなんですけど…」。新人だった昨季は初球にめっぽう強く、29打数11安打の打率3割7分9厘と結果が出ていた。だが今季は「ベンチでも、ネクストでも、相手のピッチャーとタイミングを合わせることであっても…。準備の部分をすごく大事」と深く考え込み思い切りを失った。24打数5安打の2割8厘と、負のスパイラルに陥った。

 それでも金本監督は大山を信じた。8回の勝負手には「う~ん…迷ったよね。定石では原口でしょうけど原口は左の角度あるボールにちょっと弱いんでね。速い球に強い大山ということで出しました」と起用理由を説明。ズバリ采配に応えた愛弟子を褒めた。【真柴健】