東京新大学リーグ・創価大の2019年はスタートしている。授業のスケジュールに沿って、チームは8時30分スタートと、10時半スタートの2部制で練習を行っている。8日、穏やかな天気に恵まれた同大グラウンドでは、練習の合間に岸雅司監督(63)が日焼けした顔で、思いがけない有名人とのいきさつを教えてくれた。

今や漫才界でトップの人気を博すお笑いコンビ・ナイツとの不思議な縁だった。

岸監督 そうなんだよ、塙(宣之)は創価大の落研だったんだよね。あれはね、まだ彼らが売れない時だったんだと思うけど、うちの落研から出たコンビがいるって聞いてね。それならと思いついて。確か、2006年だったと思うんだけど。野球部のOBが集まる会に呼んだんだよ。そこで、野球のネタをやってみたらって。そしたら、ドッカン、ドッカン受けてね。面白かったなあ。

やがて、ナイツの漫才はどんどん話題になって売れはじめ、今やテレビでおなじみの売れっ子芸人になった。そんなやりとりから、もう12年以上もたった、昨年の11月。ふとしたことで塙がラジオで披露したネタに、岸監督は心を動かされることになる。

毎週土曜朝9時からのTBSラジオ「土曜ワイドラジオ TOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送」で、塙は山口県周防大島町を話題にした。同町では8月下旬、行方不明になっていた2歳の男児が3日ぶりに発見される劇的な救出劇があった。ボランティアとして捜索にあたった尾畠春夫さんが発見し、その男児とのやりとりと、尾畠さんの実直な人柄で、世の中をほっと明るくさせた。尾畠さんは一躍スーパーボランティアとして有名になった。

さらに10月には、大阪府警富田林署から逃走し、大阪府を中心とした近隣住民を不安に陥れた樋田(ひだ)容疑者が逮捕されたのも、周防市だった。

日本中が注目する救出劇、逮捕劇の舞台となり、周防大島の名前は多くのメディアで取り上げられた。人口はおよそ1万5000人、山口県の東南部に位置し、瀬戸内海に浮かぶ島としては3番目の面積。年間平均気温15度と比較的温暖で、美しい海のある自然豊かな町。

そして、そこは岸監督の故郷だった。

それを知らずにラジオでネタにした塙だったが、それを岸監督の家族が聞いていたことで、同監督が塙に直電。塙とすれば、いきなりの監督からの電話に驚き、てっきり怒られるものと恐れていたところ、岸監督は電話口で「ありがとう、俺は周防大島の出身なんだよ。ラジオでふるさとの名前を言ってもらって、みんなもきっと喜んでいると思うよ」と、まさかのお礼の電話だった、という話だった。

しかし、2018年に周防大島で起きた出来事はこれだけではなかった。11月には、周防大島町と、柳井市を結ぶ大島大橋に貨物船が衝突。周防大島のほぼ全域で断水するという深刻な事故が発生していた。ライフラインが破損し、高齢者は両手に重たいポリタンクを提げて給水所から水を運ぶ重労働をすることになり、それが影響して高齢者の骨折が続出していた。

岸監督 この骨折のことは、塙は知らなかったみたいだけど、ラジオでそういう島のことを話題にしてくれて、いろんな人が聞いてくれたと思うんだよ。だから、俺もうれしくてね。きっと、島のみんなも喜んでいると思うんだ。だから、電話してありがとうって伝えたんだ。

接点が想像できない分野でも、ちょっとした心配りで思いがけない交流が生まれることもある。岸監督の温和な人柄は、周防大島で育まれ、それがナイツ・塙との交流にもつながっている。