少年野球がチーム減、選手減に悩むなか、発足2年で選手5人から46人に急成長した横浜金沢V・ルークス。その理由などを5回にわたって探ってきた連載の最終回は「楽しく、うまくなり、試合に勝つ」です。

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今年3月の練習試合。無死もしくは1死、相手の走者が三塁にいて内野ゴロが飛んだ。走者は自重して走っていなかったにもかかわらず、捕球した選手はバックホーム。打者走者も一塁セーフとなった。

試合後、澤中貴司監督(50)は子供たちに聞いた。「なぜオールセーフになったんだろう? 何がいけなかったんだろう?」。

チームを強くするには手取り足取り教えるのが早道だ。もっと言えば、うまい子を優先、優遇すれば勝つ確率は高くなる。「怒鳴らない」「押しつけない」「自主性重視」でスタートした横浜金沢V・ルークスも試合に勝てないことが続いたある日、指導者や親の間に「どうしてうまい子を優先しないのか」という声が上がってきた。

「慣れてくると面白いもので勝利至上主義になる。負けると責任の所在を探してしまうんです」。澤中監督は苦笑いする。そういう時は指導者や親たちを集め、あらためてチームの基本方針を確認しあう。

先の練習試合の場合、捕球した選手が三塁走者を見ていなかったのが最大の要因だが、周りの選手たちが「一塁に投げろ」と言わなかったのもミスが起きた要因の1つ。「子供たちが気づいているケースと気づいていないケースがあります。なぜそうしたのか、質問することで子供たちに考えてもらうようにしています」。大切なのは大人たちがブレないことだ。

多くの少年野球チームと同様、横浜金沢V・ルークスも練習は基本的に週末に行う。違うのは午前か午後のみの「半ドン」で、一日中、拘束はしない。澤中監督は「もっと練習がしたい、ちょっと物足りないなあ、と感じるくらいがちょうどいい」という。

土日の週2回、朝から晩まで目いっぱい練習したとしよう。小学生年代なら、体力的にも精神的にもいっぱいいっぱい。「週末だけ練習すればいいか」となりがちだ。逆に、物足りないくらいだと、平日、自ら練習をするようになる。自主練習で試したことをチーム練習で披露したくもなる。「週末の練習が楽しみ」と思わせることができればしめたものだ。

「自分たちで考えてつかんだものは忘れない。こうやれ、ああやれというのはその場ではできるかもしれませんが、子供たちの身に本当になっているのでしょうか」

今春卒団した最上級生を含むチームは、立ち上げのころ負けてばかりだった。しかし、1年後、地区の強豪相手に堂々と戦えるほどに成長した。「私たちのチームは基本、スタート時には弱い。でも、少しずつ自信をつけていく。自信がつけば、さらに頑張れるようになるんです」。真っすぐ前を向いて、澤中監督は力強く話した。

子供を中心に、指導者も保護者も一緒に成長していく。「プレーヤーズ・ファースト」でもなく「プレーヤーズ・センタード」。澤中監督は、今後の夢をこう語った。

「同じ思い、取り組みのチームを増やしていきたい。たくさんの子供たちが、たくさん試合に出られるように、リーグ戦の機会を増やしていきたい」

横浜金沢V・ルークスの挑戦は続く。【沢田啓太郎】(終わり)

◆学童選手の試合参加 小学生に野球の楽しさを実感してもらうには、試合出場の機会が最も効果的だろう。各地で高学年と低学年に分けてリーグ戦を実施している。3年生以下の大会もある。昨年18年目を迎えた荒川区の竹の子育成大会は、首都圏の120チームが参加。足立区のジュニアスマイルカップなど、地域のレベルアップと少年選手確保に貢献している。