これが猛虎の、男の意地だ。阪神大山悠輔内野手(24)が3点を追う8回に2点適時二塁打を放ち、連夜のミラクル逆転勝ちを呼び込んだ。今季初めて6番に下がった前日は逆転サヨナラ3ランを放つなど、4番降格後は5安打5打点の大活躍。矢野燿大監督(50)の“奪い返せ指令”に即答して3位広島を連倒し、ゲーム差を4・5に縮めた。

   ◇   ◇   ◇   

思い切って振り抜いた。表情を変えることなく、大山は二塁ベースに到達。京セラドーム大阪を歓喜で沸き立たせた男は、ふぅーっと息をついた。

「狙い球はありました。でも、どっちもいける準備もしていた。甘いところに来たので、それをミスショットせずに打ち返せた」

3点を追う8回無死一、二塁。ここぞの場面で期待に応えた。今村の2球目、高めのスライダーを捉えると打球はグンと加速した。「手応えがあったので、抜けるとは思いました」。1点差に迫るフェンス直撃の適時二塁打。「甘いボールは(打席で)1球来るか来ないか。ファウルにしてしまったら結果も変わってくる」。一振りで仕留めた。

新打線が機能した。4番マルテ、5番ソラーテの助っ人コンビがチャンスを作ってくれた。「送りバントの作戦も頭にあった。そこで(ベンチは)『打て』を出してくれた。結果で応えないと、と思った」。執念の一打が糸原の同点打を呼び、陽川の野選で一挙4点の逆転劇を完結させた。

重圧を背負い、ゲームに臨んでいる。開幕から105試合「4番大山」として生きてきた。打てば天国、打てなければ地獄…。ポップフライを打ち上げ、ため息に包まれても、決して全力疾走を怠らなかった。

だから幸運も訪れる。10日に逆転サヨナラ弾を放った直前の7回。右前打を打った際、ユニホームにトンボが止まった。気付いたのは本人ではなく広島ベンチだった。突然京セラドーム大阪に出現した「幸せのシンボル」。ぴったりくっつき、サヨナラ弾のパワーを与えたのかもしれない。

4番を外れてから、2戦連続でミラクル逆転勝ちのヒーローになった。この2日間で5安打5打点。これが男の意地だ。だが「(4番を)奪い取るべき立場」と、再奪取指令を出している矢野監督は手放しで喜ばず、「やることは何も変わらない。悠輔自身のバッティングのレベルを上げていくところ」とさらなる奮起を期待した。

勝利打点9個はセ・リーグ2位。大山が打てば、勝利がグッと近づく。そのバットで3位広島を連倒して4・5ゲーム差。「落としていい試合は1試合もない」。覚悟を決めて、力の限り振るだけだ。【真柴健】