阪神藤川球児投手(39)が最高のライバルへ魂の直球勝負を挑んだ。

総力戦の中、セーブが付かない5点リードの9回に上がったマウンド。投球練習中、巨人阿部が代打として三塁側ベンチから現れると、場内がドッと沸いた。「試合をちょっと度外視して。できるだけ良い勝負を」。守護神の腹は決まっていた。

初球、内角高め148キロ直球に阿部がフルスイング。バットは空を切り、場内はどよめく。2球目149キロ直球、3球目148キロ直球と連続ボール。ベテランには珍しく、力が入って高めに浮いた。4球目、内角に入った149キロ直球は捉えられて高々と舞い上がるも、わずかに右翼ポール際の外に切れた。どよめきは続いた。最後は外角146キロ直球がバットの上を通り、ミットへ吸い込まれた。阿部はヘルメットのつばを触り、全力勝負の右腕に感謝のサイン。マウンド上の藤川も同じしぐさで応えた。「1点差か同点なら、阿部さんの内容も変わってきたと思う。あのファウルも入っていたかも…寂しいですね」。素直な思いをこぼした。

藤川がNPBで最も多く対戦した打者が阿部だった。「この15年の間では一番の選手だった。(対戦する時は)怖かったです。巨人の選手で、大黒柱で主軸。そこに立ち向かっていくというのは、自分たちとしては宿命だった」。通算58打席で対戦し、53打数9安打。公式戦最後の対決で三振を奪った。

試合前には言葉を交わした。「『(優勝)おめでとうございます』が最初。大事なところではすごく嫌な選手だったので」。09年のWBCと北京五輪では、同じ侍として戦った。「やっぱり巨人と阪神。自分の中では、ある一定の線を引きながら」と当時を振り返る。ライバルの意識は、同じユニホームを着ても変わらなかった。グラウンドで会話をしたのも、この日が初めてだったと明かした。2人にしか分からない「18・44」の距離感。チームがAクラスに入れば、ポストシーズンで再戦もありえる。虎党ならずとも、再び対決が見たい。【奥田隼人】