明大野球部を監督として12年間率い、リーグ優勝を9度、全日本大学野球選手権優勝を1度、明治神宮大会を2度制覇した善波達也前監督(57)が24日、東京・府中の明大野球場での年内最後の練習を終え、選手に最後のあいさつをした。

午前7時、ポール間のダッシュ30本を走り終えた選手が、一塁側ベンチにいた善波前監督の元に集合した。湯気がのぼる熱気の中で、善波前監督はドスのきいた声で「こんな練習じゃだめだ。もっと全力を出し切れ! あと20本走って来い!」と言い放った。一瞬、約80人の選手に緊張が走った。前監督の言葉の真意を測りかねて固まっていると、善波前監督はニコニコッと笑って「もう(監督ではない)俺の言葉に威力はないか! 誰も走らないな」と言った。コーチで6年、監督で12年。長く東京6大学野球の名門を率い、全日本大学野球の監督も務めた。その指導者の最後の言葉は迫力とユーモアにあふれていた。

新主将の公家響内野手(3年=横浜)がお礼の言葉として「監督には『自分にとっての当たり前のレベルを上げろ』と言っていただきました。野球面、私生活で多くを教えていただきました。ありがとうございました。これからもお時間のある時は練習に顔を見せて下さい」と、送る言葉を述べると、間髪入れずに「来ないよ! お前たちが『また、来たよ』って顔されるからな」と返して、また笑いを誘った。

12年の監督生活を振り返るように12度、選手の手によって底冷えのする球場のホーム付近で胴上げされた。「(胴上げで)酔ったよ」。そう言いながら、善波前監督に涙はない。「選手が成長する姿を楽しみにしています。来年入ってくる新入生は私がスカウトしたので、彼らが卒業するのはしっかり見届けたい。もちろん、在籍している選手のことも常に頭にはあります」。そう言って、グラウンドに顔を出し続けて日焼けした顔で締めくくりの言葉をつなげた。両手には選手が送ってくれた手向けの花束を抱えて。「おお、紫か!」。どこまでも明大を愛する前監督は、明大カラーのきれいな花に目を細め、センター後方の出口から階段を上がる時にグラウンドに一礼してポツリと言った。

「さあ、これで終わった」

明大野球部は善波前監督の元でチームを支えてきた田中武宏新監督(58)に引き継がれる。【井上真】