職人芸は忘れない! 日刊スポーツ評論家・浜名千広氏(50)にOBのすごさを振り返ってもらう「ホークス・ヒーロー列伝」の今回は「守備編」。ダイエー(現ソフトバンク)現役時代に一番身近な先輩だった小川史氏(59=ソフトバンク・プロスカウト)は、グラブさばきの「職人」だったという。【取材&構成・浦田由紀夫】

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浜名氏がダイエーに入団した時、同じ内野手として小川氏には一目置いていた。背番号1を背負い、内野をどこでもこなすベテランプレーヤーだった。主に守備固めで起用されることが多かったが、浜名氏はその守備のうまさの秘密を探っていた。

浜名氏 自分は東北福祉大からドラフト3位で入団して、大学でもトップレベルだと思っていた。プロに入っても、守備の面では大丈夫だろうと自信を持っていた。でも、その考えが甘かったことに気付いた。それが、小川さんの存在でした。

当時ダイエーの遊撃では湯上谷、森脇ら守備でも定評がある選手がいた。それでも小川氏が際だっていたという。

浜名氏 グラブさばきがすごかった。説明がしようのないくらいうまかった。職人でしたね。一番は確実性。フットワークがうまかったので、守備範囲も広い。確実性がありながら、厳しい打球にも対応できる。ハードワークができる数少ない選手でした。

プロ野球は「魅せるスポーツ」でもある。現在、ソフトバンクの不動の遊撃手である今宮は「天才」ではあるが、小川氏は努力でハンディを克服していたという。

浜名氏 今宮は特段、肩がいい。後ろに守ってもアウトになるから守備範囲も広くなる。小川さんは肩はそんなに強くなかったが、送球が速く強くなるフットワークを身につけていた。元ヤクルトの宮本も同じタイプ。森脇さんはカッコ良くて、プロ野球に必要な「魅せるタイプ」ですが、小川さんはプロとして技を身につけていた。

浜名氏も1年目からレギュラーを獲得し不動の遊撃手として活躍したが、そのベースには現役時代170センチだった小川氏の技術があるという。

浜名氏 小川さんは(身長が)そんなに大きくないんですが、プレーが小さくないから、(身長が)大きく見えるんです。小さい体を大きく見せてダイナミックさを出していた。確実性がありながら大きく見せたショート。コーチになられた後も、いろいろと教えてもらいましたし感謝しています。

◆小川史(おがわ・ひろし)1960年(昭35)6月6日、千葉県市川市出身。浦安高から78年ドラフト外で西武入団。82年に金銭トレードで南海(現ソフトバンク)へ移籍。86年には遊撃手レギュラーで規定打席に到達。若手の台頭で守備固めに回り、96年限りで引退。通算1006試合、469安打、打率2割3分7厘。その後、楽天スカウトなどを経て11年からソフトバンク3軍監督、14年には1軍ヘッドコーチで日本一も経験。現在は球団編成のプロスカウト担当。現役時代は170センチ、63キロ。右投げ右打ち。