球界の新様式を探求する随時連載「ミライボール革命」。今回は8月上旬にDeNAが国内初の試みとしてトライアル実施した「バーチャルハマスタ」を特集する。バーチャル空間上に「横浜スタジアム」を構築し、スマートフォンやパソコン、VRデバイスを使っての次世代型スポーツ観戦を提案した。無料開放した初回は、リアル「横浜スタジアム」の収容人数とほぼ同数の延べ3万人を集めた。24日、球団は29日ヤクルト戦での第2回実施を発表した。新たな経営基盤構築へ収益化にも踏み込む。

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マスクをしなくても、3密を避け、おのおののスタイルで、自由度が高い野球観戦スタイルを創造する-。リアルを忠実に表現すると同時に、リアルを超越したド派手な演出で観戦時のドキドキ感を奮い立たせる-。DeNAが、ビジネスパートナーシップを結ぶKDDIとの共同企画として「バーチャルハマスタ」の第1回を8月11日に実施した。KDDI担当者は「クイックに準備を進め、実現することができた。現地で体験することとはまた違うもの。バーチャルだからこその体験を提供できる。国内初、世界初の試みになる」と近未来への期待感を込めた。

無料トライアルとして実施した初回は延べ3万人を集客した。来場者の男女比は約7:3。実際の球場の男女比は6:4で、やや男性過多だった。年齢別は最多が25~34歳で全体の約33%、18~34歳までが約半数を占め、次世代を担う若者層を取り込んだ。45~65歳以上も約25%と全世代への広がりもみせた。DeNAの林ブランド統括本部長は「球界初の取り組みで注目度も高く、多くの方に参加していただき大きな手応えを感じた」とした。

コロナ禍での新観戦スタイルの構築は球団の経営基盤に直結する。入場者数制限でグッズ販売も落ち込み、収入減は12球団に共通してのし掛かる。寄付要素が強い「投げ銭」よりも、サービス提供の対価でビジネスの成立を目指す。つまり、今回の取り組みを持続可能にするためには、収益化は必須になる。第2回は一部有料化にも着手。同本部長は「持続的にサービスを提供し、お客さまに楽しんでいただくには、ハードルがいくつもある」とし、開発、改善を進めていかなければならない。

DeNAは球界に参入した12年から、わずか数年で空席が目立つ横浜スタジアムを超満員へと変貌させた。球団、ファンの双方向で創り出す、熱気、情熱、興奮、歓喜が野球観戦の付加価値を高めた。スタジアムフード、女子トイレの整備、球場演出と“ファン第一主義”の中でファンを獲得した。バーチャル空間でもトライ&エラーの中からニーズを創造していく。

同本部長は「映像と音声のズレが生じたり、バーチャル上の演出や表現に改善の余地がある。サービス提供社とも改善を図ってる」と技術的な改善点を挙げた。同時に「初回は3場面(球場外、コンコース、グラウンド)の提供でしたが、次回は場面を増やし、バーチャルだからこそ体験できるエリアをつくっていく予定です」とサービスを拡大する。

コロナ禍に対応した新たな収入源の確立が、経営基盤の安定につながる。未来に向けたプロ野球の新様式を急ピッチで創造していく。【為田聡史】

○…DeNAは最新の3Dマップシステムを用いたAR(拡張現実)アプリ「XR CHANNEL」を利用したバーチャル企画も行った。横浜スタジアム周辺の特定の場所でスマートフォンをかざすと、佐野ら選手の巨大映像が浮かび上がるもので、8月31日から9月10日までの期間限定で実施した。

◆バーチャルハマスタの利用方法

仮想空間上にCGでリアルに再現された横浜スタジアムを、自分の分身となるアバターを操作することで楽しむことができる。利用にはスマートフォン、パソコン、VRデバイスから専用アプリ「cluster(クラスター)」のアカウント作成とインストールが必要。VRデバイス利用の場合は「cluster」に加えて「SteamVR」のインストールも必要となる。アプリ起動後「バーチャル ハマスタ」のイベントページにアクセスし、ページ下部の「会場に入る」をクリックすると参加できる。

◆第2回(9月29日)のアップデートコンテンツ&有料コンテンツ

【アップデート】バックネット裏に設置したカメラでホームベースを撮影し、自由視点のリプレー映像として配信。出塁した走者の可視化や、チャンス時、得点時の演出を追加。

【有料コンテンツ】バーチャルハマスタ内でオリジナルTシャツの販売し、購入すると同じデザインアバターに着替えることが可能。また、横浜スタジアムの高額観戦席「NISSANSTARSUITES」をバーチャル空間内に再現し、有料コンテンツとして特別な映像やゲスト解説を実施する。