26日に運命のドラフト会議が行われる。悲喜こもごも…数々のドラマを生んできた同会議だが、過去の名場面を「ドラフト回顧録」と題し、当時のドラフト翌日付の紙面から振り返る。

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<16年10月21日付、日刊スポーツ紙面掲載>

伝説の4番になれ! 阪神が20日、都内で行われた「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」で大学日本代表の4番を務めた白鴎大・大山悠輔内野手(4年=つくば秀英)をサプライズで1位指名した。大学時代は右肩を脱臼しながら試合出場を続けたド根性男。金本知憲監督(48)も栃木・小山市の同大学まであいさつに訪れ、右の大砲として熱い期待を伝えた。

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油断していた。大山はテレビ画面から目をそらしていた。白鴎大キャンパスの一室。阪神のドラフト1位指名に会場が「ええ~っ」と沸き上がる。「1位は正直予想していなかった。何が起こったのか分からなくて…」と照れ笑い。サプライズ指名に感謝し、気合を入れ直した。

大山 野球をやってきた中で、選手生命に関わるケガはしたことがない。骨折とかもないです。金本監督は骨折していてもヒットを打っていた印象がある。それぐらい強い覚悟を持ってプレーしないといけない。金本監督のような強い体を身に付けて、何年も長くやっていきたいです。

大学通算16発を誇り、大学侍ジャパンで4番も務めた。アマ球界屈指のスラッガーは鉄人魂の持ち主でもある。大学2年夏、スライディングした際に利き腕の右肩を脱臼しながら試合出場を続けたという。「打つ方はできたので、ずっとDHで出させてもらっていました」。

実はこれまで本格的なウエートトレーニングを経験していない。金本監督は「今までしたことがなくてあの能力なら、すればもっとスピード、パワーがついてくる。もっと楽しみになりました」とニヤリ。計り知れない強靱(きょうじん)ボディーは伸びしろ十分だ。

本職は三塁手。遊撃、二塁も難なくこなし、1年目からのレギュラー争いにも期待がかかる。「出られるなら、どこでもやります。阪神は若手を起用しているイメージ。チャンスをもらえたらアピールしてつかみ取りたい」と力を込める。

 大山 同世代の藤浪、北條選手は高校時代、雲の上の存在だった。2人はずっと活躍している。一緒に負けずにやっていきたい。

つくば秀英時代は甲子園の土を踏めず。大阪桐蔭エース藤浪、光星学院の主軸北條は比較対象にもならないスーパースターだった。ようやく同じ舞台に足を踏み入れる今、夢がある。

大山 高校でも大学でも優勝したことがない。侍ジャパンの時ぐらい。マウンドに集まってワーッとなるのをやってみたいと、ずっと思っています。

私生活では目立ちたくない性格。素朴で柔和な笑顔が目立つ好青年も「野球では目立ちたい」ときっぱり。大山が超変革の申し子となれば、虎の未来は明るい。

〇…大山伝説の幕を開けろ! 金本監督は全ドラフト指名後、東京の会場から栃木県・小山市内の白鴎大学まで指名あいさつに駆けつけた。午後9時を過ぎてからの初対面では直筆サイン入りのドラフト会場入館証、そして熱い言葉を送った。

「(阪神は)とにかく勝負強い、ホームランをたくさん打てる大砲が出ていない。タイガースの歴史に名を残す4番を目指してほしい。右の大砲になって、近い将来4番を任せられるようになってほしい」

指名の決め手は長打力。「打撃がしなやかで強く、タイプ的にはヤクルトの山田選手に似ているのかな。そういう雰囲気を感じる」と分析する。「鳥谷以来、野手の(生え抜き)レギュラーが出ていない。特に主軸を打てる、4番を、という選手が出ていないのが長年の課題。高山、北條たちと一時代を築いてほしい」。4番指令を受け取った大山は「その言葉を力、刺激に変えてレベルアップしたい」と目を輝かせた。

 

※記録と表記などは当時のもの