幾多の苦悩を重ねた大エースが復活祭だ。巨人菅野智之投手(31)が8回1安打無失点、108球の快投で4月23日以来、131日ぶりの今季3勝目をつかんだ。6月の交流戦は2戦2敗に沈み、ファームで再調整をして臨んだ7月の復帰戦も3回持たずに降板。シーズン4度目の登録抹消で舞台から姿を消し、7月中旬には東京五輪辞退を強いられた。自己ワーストの4連敗に陥った試練のトンネルから脱出。首位を走るチームの輪に加わった。

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お立ち台でファンを見渡し、菅野は吹っ切れたように笑い、感慨深そうに言った。

「味わったことがないような経験だった。どうしていいか分からない時期もあったけど、誰もが順調に野球人生を最後まで歩めるわけじゃない。それが今、来たんだと自分自身に言い聞かせて、現実を受け止めてやって来ました」

苦難のシーズンだった。度重なる負傷と再調整。ジャイアンツ球場で、自分の体と相談する日々を過ごした。念願だった東京五輪も辞退を余儀なくされた。「もちろん五輪に投げたかったなという思いもある。まあ…悔しさだけですね。悔しいし、どうにも出来ない感情と。言葉では簡単に力に変えるとか言いますけど、そんなに簡単なものではない」と、受け入れがたい現実と向き合った。

乗り越えて、また強くなる。前日には16安打で8得点を積み上げた強力ヤクルト打線を、6回2死までノーヒットに抑え込んだ。最速151キロの直球とカットボールを活用し、8回1安打無失点。4カ月以上勝ち星がなかったとは思えない貫禄の投球を見せつけた。 ただ、ここがゴールではない。視線はもっと先にある。「まだまだですよ。もうちょっと。決して悪くないですけど、もっと良くなるって信じてやらないと」と自らに言い聞かせるように言った。シーズンもヤマ場に入る。首位巨人に帰ってきた頼もしいエースは「どんどん取り返していきたい」とファンに誓った。次も、またその次も。この景色が見たい。【小早川宗一郎】

▽巨人原監督(8回1安打無失点で好投した菅野に)「我々は勝負師だから。非常に厳しい世界にいるというのは、プロ選手である以上、全員が分かっているところ。七転び八起き、越えられない山はないんだというね。常に挑戦心を持つということが非常に大事なことだと思いますね」

▽巨人小林(先発菅野を好リード)「いろんなものを背負って、苦しい思いをして取り組んできた中で、なかなかうまくいかなかったけど、今日は会ったときに顔もすっきりしていた。しっかりと相手打者と勝負できている感覚があった」