「恐怖」の2文字は頭にない。阪神ドラフト6位中野拓夢内野手(25)が、ど根性で反撃の一打を放った。

3点ビハインドの7回無死二塁。石山の147キロ直球に詰まりながらも、中前へ落とす適時打で2点差に迫った。「何とかチームに勢いをもたらすために、自分がかえしてやろうと」。結果的にこの1点がなければ、9回は同点に追いついていなかった。

前の打席で植え付けられた残像に負けなかった。5回、ヤクルト先発スアレスの150キロ直球がヘルメットの後頭部に直撃した。

「自分としても大事な戦い。ここでもうプレーができないという気持ちは持っていなかったし、この後もやってやろうという気持ちはあった」

北川コーチらが寄り添い自力でベンチに戻り、その後プレーを続行。試合後に「今のところ全然大丈夫かと思います」と強調した。

アクシデントをものともしない、強いプロ野球選手になった。“ショートスリーパー”な小学生時代がその礎だ。当時から阪神ファンで、夜はプロ野球のナイターにくぎ付け。小学生にとっては夜更かしの毎日でも、体調をくずさない健康優良児だった。父茂明さん(56)は「短時間でも熟睡できる子だったんです」と明かす。3人きょうだいで一番遅くに寝ても、朝の目覚めは最初。短時間睡眠でもOKな分、朝から素振りもできた。寝ても覚めても野球の日々が、今につながっている。

9回裏の守備では、先頭山田のボテボテの遊ゴロにチャージし、ストライク送球でアウトをもぎ取った。矢野監督は「雨であの打球というのはすごい嫌。いろんなところであいつが絡んでいるのは自信になるんじゃないか」とうなずいた。 3回には今季8度目の犠打を決め、つなぎあり、打点あり、好守備あり。ヤクルトに中野の恐怖を植え付ける1日になった。「とてもいい引き分けなので、この勢いを明日につなげられるよう頑張っていきたい」。頭にあるのは「勝利」の2文字だけだ。【中野椋】

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