巨人亀井善行外野手(39)が今季限りで現役を引退することが分かった。今日21日にも球団から正式発表される。上宮太子高から中大を経て、04年ドラフト4位で巨人入り。今季でプロ17年目のベテランがバットを置く。喜怒哀楽を隠さず、素を貫く、コテコテの野球人だった。印象的なシーンを当時の記事で振り返る。

【イチローとの思い出(17年1月19日=連載・野球の国から)】

過去3度のWBCで、日本中が最も熱狂したシーンといえるだろう。09年の第2回決勝の韓国戦、イチロー外野手(43)が同点の延長10回に決勝打を放って2連覇を決めた。決勝まで打率2割1分1厘と苦しんだ世界屈指のバットマン。仲間たちは「イチローさんのために」と、まとまっていた。大会中にキャッチボール相手を務めた巨人亀井善行外野手(34)が間近で見たイチローの姿とは-。

「すごかったですよね。最後の最後でああやって打つとは。さすがスーパースターだなと」。8年前の出来事を、亀井は興奮気味に語る。この大会で5度目の対戦となった韓国との決勝戦。3-3の延長10回2死二、三塁で、イチローが林昌勇から中前に放った美しいライナーの軌道は、時を経ても色あせずに強烈な印象を残している。

決勝まで苦しんだ天才打者の姿が、見る者の歓喜を増幅させた。バットが鳴りを潜めるとチームも波に乗りきれず、宿敵韓国にも4戦2勝2敗。3度目の対戦となった第2ラウンドでの敗戦直後には、韓国選手にマウンドに国旗を立てられた。大黒柱として連覇を託されたのに実力を発揮できないストレスは、さすがのイチローにもあったはず。だが近くで見ていた亀井は「愚痴もなくルーティンもいつも完璧。心技体で完璧でしたよ」と首を振った。

当時は巨人の主力ではなかった亀井だが、守備力を買われ代表入りした。「気持ちは雑用係。でも力になりたかった」。そんな時、福留から、初球から約30メートルの距離で全力投球をするイチローのキャッチボール相手に指名された。すごさを実感したのは「いい回転でバズーカみたいな重い球」(亀井)だけではなかった。「打てない時って人間、隙が出るじゃないですか。顔に気分が出たり、ボールが乱れたり。でも、イチローさんは一切なかった」。

キャッチボールを通して、世間が持つ「クール」のイメージとは違うイチローを知った。自分の感情を制御しつつ、チームを率先して考える「リーダーの顔」を見た。「めちゃくちゃ明るい人。笑いも取って和ませてくれたり」。自分の苦悩は見せずに状態を上げようと努力しつつ仲間を盛り上げる姿に驚いた。勝利への執着心に感銘を受けた。

亀井 とにかくチームをまとめようとしてくれていた。「あの人が打てば確実に優勝できる」って雰囲気が自然に出来上がっていきました。僕は聞いていただけですけど、先輩たちも「復活するまで助け合っていこう」って話をしていました。試合をやっていくごとに、まとまりはすごくなった。みんなが1つになって「助け合うぞ」って気持ちが確実にありました。

亀井ら若手はズボンの裾を上げ、イチローと同じ「クラシックスタイル」にした。「言葉で言えないからそういう形で応援したいという気持ちでした。片岡とか内川とか稲葉さんにもしてもらってね」。侍たちは「イチロー」を中心に結束を深めていった。

決勝戦後、イチローは「個人的には想像以上の苦しみ、つらさ、痛覚では感じない痛みを経験した。谷しかなかったです。最後に山に登れて良かった。日本のすべての人に感謝したいですね」と笑顔で語った。口にしたのは周囲への感謝だった。亀井は言う。「やっぱりイチローさんのチームでした。ああいう人が1人いるだけでチームはまとまるんだなと思いました」。1人はみんなのために、みんなは1人のために-。歴史に残る一打で刻んだ2連覇は、こうして生まれた。