瞬時に祈った。「頼む、入ってくれ!」。阪神近本光司外野手(27)に、ファンの歓喜がスタンドインを知らせた。「打球が上がらなかったので、『あ~、フェンスかな~』と思っていたんですけど、風がいつもと違う風だったので」。1点リードの5回1死。右翼スタンドにライナーで2号ソロを決めた。左翼から右翼方向に吹いた風のアシストも受け、貴重な追加点をたたき出した。

7月8日のヤクルト戦以来、約2カ月ぶりのアーチは昨年10月19日以来、317日ぶりの甲子園弾。「走りながら周りを見て、(本塁へ)『帰ってきた~』というか、いい追加点になったというのは感じましたね」。余韻に浸った直後、ベンチ前ではぬいぐるみ風の虎メダルを授与された。

2ボールからの一撃。野村の141キロを逃さなかった。ファーストストライクを確実に仕留める男が意識していることは、極めてシンプルだ。「1試合で4打席あったら、4球で終わってもいいと思っているので。場面によっては考えるけど、来た球を打つ。それだけです」。3番でも、1番でも変わらない。究極の好球必打の思考が、バットマンの根底にある。

初回の中前打で勢いをつけた。3回の左前打、6回の遊撃内野安打は、好機を広げるつなぎの一打に。今季13度目の猛打賞どころか、昨年4月18日以来の4安打で3割に乗せた。8月は新型コロナ感染で11試合の離脱がありながら、ヤクルト村上に追いつき、136安打でリーグトップタイだ。2年連続最多安打へ向けスパートかと思いきや、「諦めているところもあるので、個人の成績では…」。チームへの思いが心を突き動かす。

「モチベーション…、あ~でも、『なんとか』っていう気持ちですね。なんとかヒット打つ、なんとか投げさせる、なんとか勝ちをつけさせる…。そういったところが自分の中ではモチベーションになっている」

3番が大暴れし3連勝。残り19試合、近本がなんとかしてくれる。【中野椋】

▽阪神矢野監督(近本の本塁打について)「前半もね、もうちょっと点欲しいなというところで取れなかったので。チカのホームランと、1点で終わらずに(ロハス)ジュニアも、もう1点取れたので。相手に与えるダメージというか、そういうのがある、流れを作ったチカのホームランだったかなと思います」

▼阪神は9月初戦を白星で飾った。矢野監督が指揮を執る19年から、9月以降の試合では67勝47敗11分けで勝率5割8分8厘の好成績だ。このうち甲子園に限ると、42勝23敗3分けで勝率6割4分6厘。今季残り全19試合中13試合を甲子園で行う阪神にとって、心強いデータだ。

▼今季の同一カード3連戦3連勝は、8月19~21日巨人戦以来7度目。広島戦では、20年9月11~13日以来2年ぶり。

○…ロハスが2試合連続打点となる適時二塁打で存在感を示した。2点リードの5回、2死一塁から野村の外角低め139キロを芯で捉え、左中間へはじき返した。球団広報を通じ「まだ点差は2点だったので、『念のため』もう1点取っておきたいという思いだったよ」と、最近覚えた日本語の「念のため」を使ってコメント。8月に3割2分8厘、4本塁打、13打点を記録した助っ人が、9月も大暴れの予感だ。

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